台湾の山から海から・その8(菁桐〜深坑〜南港)


新北市の猫

 先日手に入れた1942年11月の時刻表が面白くて隅から隅まで読んでいる。現在と同じかそれ以上の路線網を新橋〜横浜の鉄道開業から70年で敷設しただけでなく、樺太、支那、朝鮮、台湾にまで延ばすほどの国力があったことに改めて驚く。台湾で生まれ育った当時の日本人の手記を読むと、旅行で内地を訪れた際、街並みのみすぼらしいことに驚いたと書かれていることからも、「外地」に対する開発投資がいかに凄まじかったかが分かる。
 当時の時刻表に特徴的なのは、主要幹線であっても大部分が普通列車で構成されている点だ。今でこそJR各社が増収のために特急を乱発しているが、当時の速達列車は急行が主で、特別急行は東海道本線と山陽本線を含むごく一部にしか走っていなかった。特急は国際列車の役目を担っており、内地の「富士」「燕」「鷗」を中心にして、朝鮮の「あかつき」、形式上は統治外だった満州には「あじあ」へと、それぞれ関釜航路や大連航路を介して接続していた。東京~長崎を23時間30分で結んでいた「富士」の場合、3等座席が片道14円60銭(現在の貨幣価値で約7万円)、1等寝台の区分室だと71円70銭(同30万円)もしたので、一般庶民にとっては高嶺の花。長距離の移動は普通列車に夜通し乗るのが当たり前の時代だった。
 当時の台湾の時刻表を見ると、特急列車の設定はなく、優等列車は縦貫線を走破していた2往復の急行のみ(ナローゲージの台東線を除く)。これらの列車は基隆で神戸発と横浜発の定期航路に接続し、新竹や台南などの主要都市を経由して高雄へ至っていた。昼行の1・2列車は1等~3等の座席車と食堂車、夜行の3・4列車は食堂車の代わりに寝台車が連結されており、所要時間は昼行で8時間50分。距離は404.2kmなので表定速度は45.8km/hとなり、蒸気機関車牽引の客車列車であることを考えれば悪くないスピードだ。ちなみに電化された現在は基隆〜高雄を区間車(普通列車)だけで移動すると9時間20分ほどかかり、表定速度は42.8km/hとなる。
 この歴史ある縦貫線をなぞるようにして走る台湾高鉄は、南港と左營を最短1時間半で結んでいる。台湾猫旅2日目(3月23日)、南港で最後の散歩を終えた俺はこの日の宿泊地である高雄へ向かうため、17:20発の左營行きに乗ることになるが、それは少し先の話。14時現在、俺はまだ平溪線の菁桐にいて、バスの時間までさらに猫を見つけようとしている。前回の記事でモデルになってくれた黒白が、客足のない天灯屋の店先で手持ち無沙汰にしていた。
新北市の猫

 君とはここでお別れだね。ほかの仲間にもよろしく伝えておいてね。
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 線路端の路地を平溪方面に少し戻ると、軒下を歩くキジ猫と行き合った。
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 にこやかに声をかけるも、警戒してしまって出てこない。毛色はキジ斑点のようだね。
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 傍らではデート相手と思しき三毛ちゃんが事の成り行きを見守っていた。
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 えー、行っちゃうのー?
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 線路を渡った先で子猫と合流。さてはファミリーだったか。
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 無事にやり過ごしたと思って安心しているようだけど、最後にもう一枚撮らないと気が済まないのだよ。しつこくてすまんな。
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 心配していた雨に当たることなく、菁桐坑14:26発の795路バスに乗り、スリリングな運転で山道を駆け下りる。次の散歩地は台北市南港区の舊莊と呼ばれるエリアだが、当初の予定と逆順に回っているので、南港→舊莊ではなく舊莊→南港の向きとなり、そこへ向かうには途中で南港行きの679路バスに乗り換えなければならない。795路と679路には重複区間があり、そのいずれで乗り換えても時間には余裕があったが、どうせバスを降りるなら猫を探したいので、その辺りでいちばん栄えていると思われる深坑で乗り換えることにした。台湾人には馴染の有名観光地である深坑老街は平日にもかからず雑踏していたが、赤煉瓦の古い保存建築物は観光客向けの店舗として使われているだけで、そこに人が住んでいるわけではないので恐らく猫はいない。わずか30分の乗り換えで行ける範囲となると、景美渓にかかる橋を渡って少し歩くぐらいしかできなかったが、結果的に猫には会えたので狙いは正しかったようだ。
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 大きな寝具店の真ん前にキジ白発見。童顔の若い猫。
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 車の下には黒白もいた。2匹ともこの店の猫らしい。
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 なぜそんなことが分かるのかというと、お店の前に猫用のベッドがセットされていたから。さすが寝具専門店だけあって快適そうな寝床だね。
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 679路を降りたのは中研新村というバス停で、これは散歩コースを短縮すべく、もともと降りる予定だった巴黎春天社區バス停をやり過ごした結果だ。すでに霧雨が降り始めていたし、何より暗くて写真を撮るのも難儀しそうだった。リュックの中に折畳み傘は入っていたが、中研新村バス停から南港駅までは2kmほどの距離で、一度使ったら畳まなければならないことを考えると、濡れる方を選ぶ程度の降りだった。気温は22.6℃と過ごしやすく、湿度を気にしない猫は団地アパートの軒下で寛いでいた。
台北市の猫

台北市の猫

 近寄ったら香箱を崩して逃走態勢に入った。これ以上は近寄れなさそう。
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 お目々真ん丸。今回の猫旅は華やかな毛色が少ないので、できれば親睦を深めたかったな……。
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 この日最後の猫は距離を置いて佇む2匹。こちらは特に警戒する風もなく、きょとんとしてこちらを見つめている。
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 傍らで一部始終を眺めていた婆さんが、「そこにもう1匹いるよ(推定)」と教えてくれた。言われなければ気づかなかった。
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 このようにして台湾猫旅の2日目は雨の中で終わりを迎えた。人混みやスクーターが騒々しい台北近郊に1日半も留まって、たくさんの猫に会うことはできたものの、正直気疲れもしていて、ようやく首都圏から離れられることにほっとしていた。翌24日はこれまた大都会の高雄を散歩するが、これは高雄国際空港から七美へ飛ぶために通らなければならない道。このあとさらに歩いて南港駅に辿り着き、冒頭に書いたように17:20発の高鉄に乗って宿泊地の高雄へ向かったのだった。この日見かけた猫は基隆市瑞芳区で23匹、新北市平溪区で13匹、深坑区で2匹、台北市南港区で3匹の計41匹だった(続く)。
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