台湾に存在して日本には存在しないものの一つに「島嶼だけで構成された県」がある。台湾に三つあるうちの一つが2023年の猫旅で訪れた金門県、もう一つは去年の台湾旅行で訪れた連江県、そして最後の一つが今回の猫旅で訪れた澎湖県だ。そのうち金門県と連江県には市が存在せず、中でも連江県は郷(日本における村に相当)が四つあるだけで人口も14,000人しかいないというから、自治体を維持できているのが不思議なレベルだ。その点、馬公市という「市」を擁する澎湖県は人口が10万人を超えていて、その6割は県庁所在地でもある馬公に集中している。大小90の島や岩礁からなる澎湖諸島は澎湖ブルーと呼ばれる美しい海に囲まれ、柱状節理などの観光資源にも恵まれており、台湾きってのリゾート地として観光の玄関口にもなっている。
2014年から猫旅と称して台湾各地を旅してきて、未踏の県として残っていたのが今回の澎湖県だった。環礁やカルデラの火口縁のようにも見える輪っか状の主島は、割れ目噴火でできた溶岩台地が海に沈んだ沈水地形で、短い時間であちこち回るには不向きな形状だ。便宜的に「主島」という書き方をしているが、この輪っかは馬公のある澎湖本島から反時計回りに中屯嶼、白沙島、西嶼という四つの島で構成され、すべての島が橋で繋がれている。せっかく行くならいくつかの島をハシゴしたいと思うものの、短い猫旅の何日かを澎湖に割り当てる機会のないまま、最後まで残ってしまったというわけだ。
台湾猫旅3日目(3月24日)、高雄散歩を終えた俺は空路で七美へ。澎湖諸島に属する七美嶼はそれ一つが七美郷という自治体で、登録上の人口は3,900人だが、実際に居住しているのはその半分以下と見られている。七美空港をあとにして海港へ向けて歩き出すと、人口減少の実態を裏付けるかのように、清朝以前や日本統治時代のものと思しき廃屋が点在している。古い年代のものは現地調達の玄武岩や珊瑚石で作られており、経年劣化で屋根は抜けても塀と壁だけは残り続けている。大陸から移り住んできた人々が、まだ生活の安定しない貧しい時期に建てたものだろうが、詳しい年代までは分からない。より新しい建物には赤煉瓦が使われていたり、閩南建築に見られる馬背型の屋根も持つものもあり、最初期の素朴な建屋とは一線を画している。そんな一角に七美最初の猫はいた。

あっちふらふらこっちふらふらしながら3kmほど歩き、ちょうど1時間後の12時半に南滬港と呼ばれる海港に到着。気温は25.4℃とさほどではないが、離島だけに湿度は高く、雲一つない空から容赦なく日差しが降り注ぐ。考えてみればここ七美は北緯23°44'と北回帰線にごく近い。夏至までまだ3ヶ月あるとはいえ、南中高度は約68°にもなって影が短い上に、そもそも澎湖諸島は硬い玄武岩質と塩害のせいで高い木が生えず、休憩できるような日陰がほとんどないのである。加えて南中高度が高くなると猫の写真も撮りにくい。真上から差す日差しはエメラルドグリーンの海を撮るにはいいかも知れないが、猫は眼窩に影ができて怖い顔になってしまう。夏至の日に北回帰線上で猫の写真を撮ってみたいなどと考えたこともあるが、猫にも俺にも何のメリットもない上に写真もきれいに撮れないことが分かったのでやめた。
空の港には猫の興味を引くようなものはなかったが、海の港にはあるらしい。行く手に野良然とした黒が現れた。

痩せてはいるが不健康な感じは受けない。飼い猫はみんな太りすぎなんだよな。

とはいえ空腹が辛いことは俺も知っているので、モデル料として美味しいカリカリをひとつまみ置いておいた。

一緒にいたキジトラは懸命の呼びかけにも応じず、若い鉢割れだけが取り残された。

日差しを避けて隠れているのもいた。薄雲がかかってきたから、もう出てきてもいいと思うよ。

今夜の投宿地である馬公へは、ここ七美南滬港から南海之星と呼ばれる船に乗って1時間50分。予約制ではないので早めに乗船券を買っておきたいが、さすがに海港ともなると猫が多く、いちいち足止めされるのでなかなか辿り着けない。フェリーもフェリーターミナルもそこに見えているのに!

コンクリートの上がり框で伸び切っていたクリーム白。カメラを向けたらしゃんとした。

七美には薄色の遺伝子が存在するのか。先祖は台湾本島から持ち込まれたのであろうな。

もとの毛色はキジ白だね。劣性対立遺伝子がホモ接合になるということは、そもそもこの島は潜在的にc#の遺伝子が濃いのかも知れない(#は複対立遺伝子)。

薄色とカラーポイントに会えたことに感謝しつつ、もと来た方を振り向くと、なんかさっきより増えているような気が……。

カメラを向けたらお澄ましポーズしてくれた。首から下が赤茶けているのは唾液のpHがアルカリに傾いているからかな。

就航の30分前になってようやくフェリーターミナルに到着。翻訳アプリは地名が入るとまるっきり役に立たず、メモ帳に「13:30開、馬公、成人1張、單程」と書いて差し出せば売り場の小姐にもすぐに伝わり、笑顔とともに438元と書かれた乗船券が発券された。

出港までの短い時間にもさらなる猫を発見。ここで紙幅が尽きたので一部は持ち越す。七美で見たものたちの写真はこちら。

「下一篇也看得到我們這幫夥伴喔(次回も俺たちの仲間に会えるんだぜ)」





























