台湾の山から海から・その11(七美嶼〜馬公)


馬公市の猫

 猫用のAIM製剤が承認申請され、「30歳まで生きられる!」というフレーズが一人歩きしているのを見ると、言葉の通じないペットというのは可哀想な立場だなと改めて思う。腎臓だけ元気でも、ほかがヨレヨレだったらどうなるか想像しないのだろうか。一昨日17歳になったマコちゃんも腎不全の所見こそないが、2年前に鼻腔内リンパ腫を発症し、化学療法で痩せ細った体重は未だに戻らず体力も衰えた。関節痛もあるらしく四肢の足取りも覚束なくなっている。年を取ると波状攻撃のように様々な病気が襲いかかってくるし、それらの病気を患って過ごす時間は腎不全よりもずっと苦しいかも知れない。開発者の元教授は資金を集めなければならないし、出版社は本を売らなければならないだろうが、「猫が30歳まで生きる日」というタイトルで触れ込んだのは軽率だ。これが「配偶者や親が200歳まで生きる日」だったら絶望しかないのに、ペット相手だとそうならないのは、言葉を持たない彼らの心中を、いかようにも都合よく解釈できるからだと思う(AIM製剤の有用性を否定するものではなく、単に長く生かすことを尊ぶ風潮に疑問を感じているのである)。
 さて、今日紹介するのは3月22日から予定外の8泊9日もすることになった台湾猫旅の続き。3日目となった24日は朝の高雄から始まり、德安航空7009便で七美嶼に渡ったあとは海港を目指して4.6kmの散歩。七美嶼は面積7.0km²、周囲14.4kmの小さな島だが観光スポットは豊富で、最も有名なのは北東の端にある雙心石滬だろう。雙心は読んで字の如くダブルハート、澎湖でよく見る「滬」という字は魚を捕る仕掛けのこと。澎湖の海には珊瑚石の石垣をハート型に組み上げ、干潮で出られなくなった魚を捕る「石滬」が590基も設置されている。中でもハートが二つ重なった七美嶼の雙心石滬は人気だそうだが、猫オタの俺は付近に人家もないような場所へ赴く暇はないので華麗にスルー。そもそも飛行機の到着から船の出港まで2時間20分しかないので、島の猫たちへの挨拶回りでいっぱいいっぱいなのである。
 馬公行きの船が港を出る30分前、チケットを買って安心したのも束の間、猫は間断なく現れる。
七美郷の猫

七美郷の猫

 台湾はどんな田舎にもコンビニがあり、そこではたいてい犬か猫が待機している。君はずいぶん丸々しているね。
七美郷の猫

 この島の猫は痩せたのや太ったのなど色々だ。待遇の差というより、痩せているのはお腹に虫を飼っているのではないかと思う。
七美郷の猫

 碼頭ターミナルの看板の駄洒落に目を奪われつつ、ふと視線を下にやると毛むくじゃらがいた。
七美郷の猫

七美郷の猫

 とても眠そうで、いくら呼んでも目が開かない。七美嶼にも長毛がいることが分かったところで時間切れとなった。
七美郷の猫

 とある巨大な社会主義国にとって台湾海峡を渡る軍事侵攻が簡単でないのは、この海峡の荒波と強風がそれほど過酷だからとも言われている。総トン数350トンにすぎない南海之星はよく揺れたが、この時期の海況としては悪くなかったことや、途中の望安島に寄港してしばらく停泊したこともあり、ぎりぎり船酔いすることなく目的地の馬公南海碼頭には定刻の15:20に到着した。乗客の多くは迎えの車やスクーターに乗せられ、一部は大型の観光バスに吸い込まれていくが、徒歩で移動する人は少なく、ましてや俺のように西の市街地ではなく東の漁港方面へ向かう人は皆無だった。碼頭の北東にある不自然にだだっ広いエリアにはマリオット系の高級ホテルや官庁の建物が点在し、漁港へ行くにはそこを突っ切って20分ほど歩かなければならない。馬公散歩は翌朝にも予定しているが、ホテルにチェックインもせずに漁港へ直行するのは、市街地から遠すぎて翌朝では時間が足りないからだ。ちなみに馬公は台湾の中で最も早く漢民族が移住してきた土地であり、元の時代(1280年ごろ)には行政機構が置かれていた。俺が不自然にだだっ広いと感じた場所は、日本統治時代には海軍の要塞になり、現在の澎湖県図書館のある辺りは弾薬庫だったそうだ。要するに誰が統治しても馬公は重要拠点なのである。
 船を降りてから歩くこと25分で初めての馬公猫に遭遇。
馬公市の猫

馬公市の猫

 ぴーんと尻尾は上がっているけれど……、
馬公市の猫

 最初からその尻尾だったものね。親愛のぴーんじゃないのだろうね。
馬公市の猫

「馬公的貓貓不論是不是兩手空空、都很歡迎喔〜!(馬公の猫は手ぶらの人も分け隔てなく歓迎するよ!)」
馬公市の猫

 日が傾いて影が伸びてきたので、日中の七美よりだいぶ楽になった。この辺りには伝統的な閩南様式の住居や珊瑚石の構造物が多く、歩いていても飽きないし、何より静かなのがいい(写真あり)。夕方近くになって猫たちもぼちぼち出てきているようだ。
馬公市の猫

 台湾では満遍なく見かける霜降りさん。ということは、やっぱり漢民族によって大陸から持ち込まれたのかなあ。台湾の猫は馬公を経由して全島へ広がっていったのかも。
馬公市の猫

「お目が高い! これは由緒正しい毛色なんですよ!」
馬公市の猫

 快くモデルを引き受けてくれた。
馬公市の猫

 草むらで何かと対峙する猫発見。
馬公市の猫

馬公市の猫

 黒の向いている先にはキジトラがいた。
馬公市の猫

 まだ若い。生後10ヶ月ってところかな。
馬公市の猫

「あっ、観光客だ。珍しいね」
馬公市の猫

馬公市の猫

 似たような背恰好のがもう1匹。これはやはり兄弟なのであろうな。
馬公市の猫

 並べると見分けがつかないキジトラ・ツインズ。華語だと虎斑雙胞胎って言えばいいのかな。
馬公市の猫

 道端で猫が涼んでいた。
馬公市の猫

馬公市の猫

 向こうへ行きかけていたキジトラもこちらに気づいて戻ってきた。ここは観光客が来るような場所じゃないし、車やスクーターも少ないし、猫が休むにはいい場所だね。
馬公市の猫

「お陰様で穏やかに暮らせていますよ」
馬公市の猫

 今日の日没は18:14。薄雲はかかっているが、それまであと2時間近くあるので、ホテルへ向かう前に少し北上してみることにした。七美ほどではないものの、馬公市内にも伝統的な家屋や建築が残されていて、それらを眺めずに一日を終えるのももったいないように感じた。ただ去年のようにあちこちで買い食いすることはしなかった。俺の組む旅程は精緻であるが故に脆く、お腹なんて壊そうものなら呆気なく瓦解する。台湾猫旅は(予定では)まだ4日も残っているのである(続く)。
馬公市の猫

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