猫旅2日目の17日に念願の猫又駅を訪問し、暑い日だったにもかかわらず初めての富山猫にも会えて、一通りの目的を達して迎えた翌18日。この日は早朝4時半すぎに起床し、黒部5:45発の始発電車に乗って、最初の散歩地である親不知には6:40に到着した。こんなに朝早くから活動を開始したのは、ひとえに暑くなる前に散歩したかったからで、貴重な持ち時間を割り当てたのは、それだけこの場所を大切に考えていたからでもある。
交通の難所として古くから知られる親不知・子不知だが、俺自身は国道8号を車で通過することが多かった。免許を取って間もないころは運転するのが面白くて、親不知のほかにはフォッサマグナに沿って走る国道148号とか、安房トンネルが開通する前の国道158号など、休日になるとレンタカーを借りて険阻な道ばかり走っていた。これらの道はどれも改良の進んだ現在とは比較にならない悪路で、殊に夜間は長距離輸送の大型トラックがひっきりなしに行き交っていて、運転技術の未熟だった当時はそれが恐怖でもあり刺激にもなっていた。ただ、親不知を車で通過したことは何度かあったものの、地面に降り立ったことは一度もなかった。鉄道を使う場合も特急か急行だったので、親不知は長いトンネルの狭間に一瞬見えるだけの小駅というイメージだった。
列車を降りてみるとホームにあると思っていた跨線橋がなく、本線クラスの路線には珍しく構内踏切を渡る構造になっている。崖っぷちを削ってできたわずかな平地に小さな木造の駅舎が建ち、入口横には国の登録有形文化財を示す銘板が取り付けられているが、親不知と大書された扁額の字はあまり上手ではない。俺が中学生ぐらいだったらこの手の無人駅で一夜を明かしたいと思っただろうが、今はたぶんそういうことは許されない。駅の周囲に人家は見当たらず、無住地帯と錯覚しそうになるが、駅前の県道を東へ少し歩けば「歌」と称する小さな集落が現れる。聖徳太子や親鸞聖人が歌を残したとされるロマンチックな由来から、一度来てみたいと思っていた場所だった。

集落は二級河川の歌川に沿って展開しているが、河口から500mほど上ったところでぱったりと途絶えている。歌川は支流のない独立した水系の河川で、たった3kmという流路延長に対して河口と源流の標高差が500mもあり、これは川というより沢のレベルだ。ひとたび大雨が降れば土石流の危険が増すことは容易に想像できるし、実際に川岸と河床は護岸工と床固工でがっちりガードされていた(こちら)。親不知・子不知がいかに急峻な地形なのか、川一本からも見て取れるわけで、上流になどおっかなくてとても住めないのだろう。

「土石流も怖いけど喫緊はクマだよね。つい先月も上の橋のところにいたんだよ」

思いがけず猫民家の猫に遭遇。待っていればもっとたくさん出てきたかも。

猫たちに教えられたクマ出没地点を覗いてみると、クマよりだいぶ小さいのが地面に集まっていた。

こちらの手前もメスっぽい。毛色はみんなティッピングが生じたいわゆる「まだら」。昔、はるひ野の丘で遭遇したまだら家族を思い出すなあ。

右側は黒煙ちゃんと同じブラックスモークだね。左側は生え際の白抜けがより大きなタイプで、分類するならシルバーシェードかな。首の下が赤茶けているのは唾液のpHがアルカリに傾いているからだと思う。こうした特徴も一時期の黒煙ちゃんを彷彿とさせる。

お母さんはさらにティッピングの白抜けが大きくて、厳密にはチンチラシルバー(chinchilla silver mackerel tabby)のレベルだろうけど、こういう毛色の変化は無段階的で分類が難しいので、タグは大まかに「まだら」としている。家族の動画はこちら。

親不知には1時間半の滞在で、歌のほかに1.5km離れた外波にも足を延ばすつもりだったが、残り時間が微妙だったのでやめておいた。次の散歩地である糸魚川に体力を残しておきたいからでもあった。
糸魚川は何年も前から温めていた猫散歩の候補地で、今回ようやく実現の運びとなったわけだが、いかにも時期が悪すぎた。気温の上がり方も日差しの強さも真夏と同じレベルで、それに梅雨の湿気が加わるものだから体力の消耗が半端ないし、そもそも猫が出てこない。8時半〜10時半という午前中の早い時間帯で何とかなると思っていたが甘かった。今回の猫旅では栂池にも立ち寄る予定だったが、こちらも気温が高かったのと、山間に不穏な雲が出ていたので次の機会に譲ることにした。せっかく散歩するならもっと快適な季節じゃないと楽しめない。
というわけで糸魚川で4.8km歩いて見かけた猫は兄弟と思しき2匹のみ。

こちらはお肌が荒れ模様。大白斑は紫外線に弱いっていうからなあ。

傍らには飼い主と思しき夫婦がいて、この子をジローちゃんと呼んでいた。となるともう1匹はタローちゃんか。

勝手を知った街なら40℃になろうが猫拠点まで一直線に向かって引き返せばいいだけだが、知らない街を当てもないまま彷徨ったのでは30℃でも熱中症は免れない。糸魚川の街なかは予想通り風情のある路地が多く、涼しい時期に必ずまた来ることを誓って散歩終了となった。
乗り鉄たるもの、新幹線などという軟弱なものに乗るのは邪道中の邪道であり、何なら糸魚川から府中本町までずっと普通列車でも構わないくらいだが、それだとまっすぐ帰るしか選択肢がなくなるので、原理主義はほどほどにして次は信濃大町で途中下車。栂池をパスしたことで余った時間をここで費やすことにした。長野県内を散歩するのは2022年2月の野沢温泉村以来。

初めての大町猫は黒。たまねぎ番は突然の来訪者に目を丸くしている。

散歩をスタートしたのは夕立が止んだ直後だったらしく、湿気にやられてしまって3.8km歩いただけでギブアップ。最後の猫は曲がり角の向こうから現れた。

今回の猫旅は個性的な毛色に会えた旅でもあって、音澤集落のレッドポイントに始まり、大町のレッドポイントで終わるという印象深いものだった。最後にもう1枚、紫陽花と一緒に撮らせてもらったあと、信濃大町15:48発の臨時特急「はくば2号」〜松本16:30発の特急「あずさ46号」というスジに乗って、自宅に帰り着いたのは19:15だった。この日は土曜日で翌日も休みだったので、ここから普通列車だけで帰ることもできなくはなかったが、座れなかった時のダルさを考えるとどうしてもその気になれなかった。以前、戸狩野沢温泉から普通列車で帰ろうとした時、真冬で体が冷えすぎて腰が痛くなり、塩尻でギブアップして特急に乗り換えてからというもの、自信喪失気味の乗り鉄なのである。






























