高雄市那瑪夏区というのは静岡市で言うところの葵区のようなもので、中でも最奥の達卡努瓦里は台29線の行き止まりにあって、その先に道がなく玉山山脈を越えられないところからすると、赤石山脈に阻まれた畑薙あたりに相当するだろうか。せっかく来たなら行けるところまで行く主義なので、この日の宿は台29線の那瑪夏區公所バス停からさらに徒歩で2km分け入った最奥の地、那瑪夏櫻之屋という名の一軒宿だ。リンクを張っていないことから分かるようにウェブページなどはなく、予約サイトにも対応していないので電話するしかないわけだが、華語の話せない俺には無理なので、澎湖在住の日本人に依頼して予約を代行してもらった。オーナーが高齢とのことで予約を受けてもらえない可能性もあったが、寝るだけでいいし送迎もいらないとの条件で頼み込んだ結果、無事に泊めてもらえることになった。
今日紹介するのはその那瑪夏へ向かう道中、バスを乗り換えるついでに立ち寄った甲仙の猫たち。高雄駅からは高旗甲仙快線と呼ばれるバスで2時間以上かかる辺鄙な土地だが、着いてみると平日にも関わらずちらほらと観光客の姿が見られ、さしたる特徴もなさそうな集落で何をしているのか観察してみると、多くの人は「○○芋冰城」と看板の出ている店で名物のタロイモアイスを舐めていた。前回の記事にも書いたように、この街には「貓巷」という猫がテーマの路地があり、俺自身はタロイモよりもそちらの方に興味があったが、まずはホンモノの猫を見つけて一安心するために甲仙の二つ手前でバスを降りた。3月26日(猫旅5日目)、この日2回目の散歩は楠梓仙溪の右岸に開けた公館という小さな集落から。13:50のスタートだった。
1匹目はほどなく発見。車の上で寝ていたところ、他所者の気配を察して頭をもたげた。

自分に向けられたカメラを不思議そうに眺めている。この家の子かな。

気温は32.2℃もあって、いくら熱帯とはいえ3月にしてはかなり暑い。この先、こんな感じで見えるところにいてくれればいいんだけどな……。

楠梓仙溪にかかる甲仙大橋を渡ると、甲仙市街の街並みは看板が犇めく昭和の雰囲気。観光資源のかなりの割合をタロイモが占めているらしく、関連商品を扱う店内には観光客の姿が多い。広いメインストリートは日当たりも良く、猫が寛げるような雰囲気ではなかったので、細い裏路地を選びながら歩いていると、日陰で伸びるいかにも南国という姿が見えた。

私は旅の猫好きです。ちょっと写真を撮るだけなのでどうぞそのまま。

地面のキジトラは煉瓦塀の向こうに隠れてしまい、逃げた先にはその一部始終を眺めているのもいた。

これはまたずいぶん赤茶けたキジ白。台湾では割と頻繁に遭遇するけど、これは烈嶼で見かけた赤いヤツに匹敵するレベル。

行く手の右側に見えてきたのは貓巷の傘アート。でもそれより先にホンモノに目が行くのが猫オタ。

ほらいた。俺は傘を見に来たんじゃないんだよ。猫を見に来たんだよ。

よほど眠かったのか、正面に回ってようやくこちらに気づいた。前足をきちんと畳んで可愛いねえ。

貓巷は100mほどの短い路地で、様々なウォールアートや傘のアートで彩られているが、あいにくそこに猫は出歩いていなかった。路地の周囲には猫ボックスやカリカリ皿が置かれていたので、タイミングが良ければ猫にも会えるはずだが、30℃超えの真っ昼間では粘っても無駄なのでさらに歩く。下の写真のように公共施設にも出入りしているくらいだから猫は少なくないはずだが、甲仙に関するいくつかの記事を読んだところでは、地元民にとって特に猫が多い街との認識はないようだ。猫の存在が景観に溶け込んで、慣れた目には見えなくなっているのかも知れない。ちなみに甲仙はかなり内陸の街だが標高は260mほどしかなく、いわゆる高砂族(山間に暮らす原住民)の街ではない。住民の6割は閩南系の漢民族で3割が客家人なので、猫が多いといっても台東県あたりの原住民集落とは雰囲気が異なる。甲仙で見た猫以外のものたちはこちら。

こちらは黒味のしっかりしたトラディショナル(?)なキジトラ。熱帯だから毛皮が薄そう。

狭い街をぐるぐる歩き回って疲れてきたころ、車の下で伸びるカラフルなお尻を発見。

今回は地味な毛色が多くてさ、華やかな君のお尻に魅かれたんだよ。ご協力お願いしますよ……。

メインストリートから少し離れると人の気配が消えて静かになる。もともと貓巷もこんな雰囲気の路地だったようで、ウォールアートが描かれるようになったのは2015年からだそう。

朝の散歩ならもっとたくさん会えるだろうけど、高雄で朝イチのバスに乗っても甲仙に着くのは8:50だからなあ。だからここも那瑪夏もなかなか旅程に入れられなかったわけだけれど。

甲仙から那瑪夏へはJOY公車と呼ばれるコミュニティバスに乗る。これは主に山間僻地の住民が医療福祉などの公共サービスを受けられるよう、国や自治体の補助のもと移動手段を提供するもので、系統番号にHealthcareやHospitalを意味するHが使われている。俺が那瑪夏への行き帰りに乗ろうとしている高雄客運のH21路とH22路は、旗山や高雄の市街地に存在するいくつかの総合病院を結ぶ路線で、系統別に運転日が異なっているほか、運転本数もわずかなので、間違えると軽く旅程が崩壊する。俺がこれから乗る16:05発のH22路は火・木曜日の運転のはずだが、台湾のバス事業者がインターネットで公開している情報は非常に分かりにくく、ここへ来てもまだ一抹の不安がある。
ねえ三毛さん、もしバスが来なかったら、この街に泊まるところはあるのかな。

甲仙散歩は15:50に終了。無事に甲仙を発車したバスは楠梓仙溪に沿う台29線をすっ飛ばし、車窓に現れた小林村(被災時の高雄県甲仙郷小林村、現在の高雄市甲仙区小林里)の跡地もあっという間に流れていってしまう。ここは2009年8月の八八水害で大規模な山体崩壊が発生し、一瞬にして集落が飲み込まれた悲劇の地で、降り始めからの累積雨量は3日間で2,965mmにも達したという。せめて記録だけでもと思って動画を撮ったが、車窓から跡地が見えていたのは30秒にも満たなかった。
次回の台湾猫旅は3月27日(6日目)の朝、那瑪夏は達卡努瓦里で見かけた猫たちを紹介する。



























