2026年3月27日、台湾猫旅6日目の朝は高雄市の山奥のさらに奥、那瑪夏区達卡努瓦里の一軒宿で目覚めた。寝床から這い出て外へ出てみると、母屋の前に1匹の黒猫が佇んでいた。

この前日、甲仙から小さな車体のバスに揺られ、宿に最寄りの那瑪夏區公所バス停に到着したのは16:54だった(前回の記事はこちら)。高雄客運の時刻表では17:20のはずだからかなりの早着で、これは途中のバス停を30分近く早発しているということでもあるわけだから、やはり外国のバスは油断ならないと気が引き締まる。バス停から宿までは細い林道をさらに2kmほど登らなければならず、野犬が活発化する薄暮の時間帯なのでかなり緊張していたが、道中見かけたのは鶏小屋の見張り番と思しき猫の家族ぐらい(逃げられた)。ジャングルのように生い茂った椰子林に夕闇が迫るころ、行く手に宿の灯が見えてきた時は心底ほっとして、まさかそこから3匹の犬が飛び出してくるとは思ってもみなかった。最初は俺を不審者と見做して激しく吼え立てていたが、俺だって猫を手なずけることに関しては一家言持つ男である。4本足の動物なんてどれも大して変わりゃしない、にこやかに接すれば何とかなると思い、本当は怖いのをおくびにも出さず、「いい子だねー」とやっていたら、数分後には尻尾をぶん回して纏わりついたまま離れなくなった(ちょろい)。懐いた犬というのは猫よりも遥かにコミュニケーションが濃厚で、3匹セットで行く先々についてくるものだから、本命のこの子に会えたのも翌朝になってからという次第。

眼下に広がる森は鳥の囀りや虫の声がかまびすしい。窓を網戸にして床に就いた昨夜も、耳にしたことのないそれらの声を聞き、異国の地の最奥まで来たのだなあという実感に浸りながら眠りについた。気温は明け方に15℃まで下がり、心も体も癒やされた一夜だったが、星空を見に出なかったことだけは心残りだった。ドアの前には犬が張りついていて、いちいち接触を図ってくるので外へ出るのが億劫になってしまった。またこの辺り一帯はホタルの名所で、偶然にもこの日から「那瑪夏賞螢季暨水蜜桃系列活動(那瑪夏ホタルと水蜜桃フェスティバル)」が始まることになっていたが、それらしい虫は1匹も見なかった。あとで調べたところではどうやら雨不足で時期が遅れていたようだ。

黒はとても人懐っこい子。犬があっちへ行った隙に動画を撮っていたら、いつの間にか戻ってきて、猫動画なのか犬動画なのか分からなくなってしまった。動物たちの名前は軒並み聞きそびれたが、茶色い犬だけは部屋に「最棒的球球」と書かれた写真が貼ってあった。バス停から宿までに見たものたちはこちら。

宿をあとにしたのは7時半。いつもより出発が遅いのは、ここが標高840mの山の中で涼しく、日が高くなるにつれて暑くなったり、雑踏やスクーターでうるさくなる心配がないからだ。加えて甲仙へ戻るバスの便数も少なく、6:40の次は13:00まで来ないので、早く出発しても逆に時間が余って居場所に困るのである。たっぷりある時間は小さな集落の猫散歩のほか、山中に今も残る達卡努瓦神社へも足を延ばすつもりだった。
1匹目は2kmの林道を下り、集落の入口で見かけた茶色いやつ。宿を出発してから30分あまりが経過していた。

達卡努瓦里には大きく分けて二つの集落があり、一つは2007年まで高雄県三民郷民生一村と称した、主に卡那卡那富族という部族が暮らす集落。もう一つは2007年まで民生二村と称した布農族が暮らす集落。2008年1月に三民郷が那瑪夏郷に改称された際、一村と二村は達卡努瓦村として一つに纏められたが、もともとアイデンティティも言語も異なる部族であることから、今月1日より再び分割され、それぞれ達卡努瓦里と瑪星哈蘭里と称するようになった(2010年に高雄県が高雄市へ編入された際、下位行政区分の郷は区へ、村は里へ変更されている)。つまり俺が訪問した3月の時点では、泊まった宿もこの子猫も達卡努瓦里に属していたが、今月1日からは瑪星哈蘭里の所属になったということ。原住民語が由来の地名は奇異に見えるかも知れないが、アイヌ語由来の地名を見慣れている俺にはさほどそうは感じられない。むしろ三民主義とか指導者の個人名を冠するよりも、歴史的背景や愛着が感じられて良いと思うし、カタカナという逃げ道のない台湾華語で、いかに風雅な漢字を当てるか苦心の跡が窺えて面白い。

娘がいちばんフレンドリーで、カメラに反応して転がってくれた。可愛いねえ。

キジ白兄弟は遊びに夢中で止まらない。どこの国も子猫の挙動は同じだねえ(動画あり)。

小さな集落なので1周するのもあっという間だが、時間はあり余っているので2周、3周と散歩を続ける。すると先ほどまでは見えなかったものが見えてくるから不思議だ。

今回の猫旅では登場が少ない渦巻き模様。那瑪夏にも毛色の多様性。

呼び止めたら座ってモデルになってくれた。毛並みもいい感じだね。

背後で俺たちの様子を見守るキジトラを撮って、卡那卡那富族の暮らす旧民生一村の散歩は一旦おしまい。このあと達卡努瓦神社を経て、布農族の暮らす旧民生二村へと向かっていく(続く)。






























