台湾の山から海から・その23(那瑪夏〜高雄〜枋寮)


枋寮郷の猫

 台湾の行政区分では直轄市の下に区があり、県の下に県轄市と鎮と郷があって、その辺りは日本に似ているところもある一方、台湾独自の行政区分として「山地原住民郷(山地郷)」と「山地原住民区」が存在する。これらは読んで字の如く原住民が多く居住している地域で、通常の区や郷に比べると原住民の自治権が大幅に拡大されている。例えば郷(日本における村に相当)の首長選挙には一定の条件の下で誰もが立候補できるが、山地郷の首長選挙に立候補できるのは原住民のみ。直轄市の下にある山地原住民区も、もともと山地郷であったものが直轄市への昇格とともに区になった経緯なので、通常の区が単なる行政区で自治権がないのに対して、山地原住民区には自治権が認められており、こちらも首長選挙に立候補できるのは原住民のみとなっている。
 山地郷のルーツは日本統治時代の「蕃地」に遡る。大雑把に言うと、当時の台湾に行政機構を置くにあたって、主に漢民族の住む地域は地方自治体や行政区分の整理が進んだものの、原住民の住む山間部までは行き届かなかったため、そうした地域を蕃地として分類し、行政事務を台湾総督府直轄の「理蕃警察」と名付けた何でも屋に丸投げした。により行うことにした。内地からたった一人でマラリアの蔓延するジャングルに配属され、本来の警察業務だけでなく学校の先生や行政事務、医者、農業指導、商人、土木作業から郵便配達、はたまた結婚式の仲人までこなす警察官の悲哀を書き始めると長編ドキュメンタリーとなって猫ブログの範疇を逸脱するので割愛せざるを得ないが、そうした属人的な執務形態から、台湾原住民の日本人に対する感情は一様ではなく、霧社事件のような激烈な武装抵抗が起きた一方で、日本時代を肯定的に回想する人々も少なくない。警察官にはいい人もいたし悪い人もいたからである。
 行政区分の話に戻ると、例えば今回訪問した高雄市那瑪夏区達卡努瓦里は、日本統治時代は高雄州旗山郡蕃地と称し、それだけでは大雑把すぎて郵便配達や人を訪ねるのに支障があるので、蕃地のあとに部族ごとの集落を示す「○○社」と続けた。現在の那瑪夏区達卡努瓦里は蚊仔只カンアチ社タカヌワと称したようだ。日本の敗戦後は中華民国が台湾を統治することになり、蕃地はその時に山地郷へ移行した。原住民語が由来だったタカヌワは孫文の三民主義から取った「民生村」に改称したが、その後、2008年に再び達卡努瓦村に戻されたのは前回の記事に書いた通りだ。
 さて、主に卡那卡那富カナカナブ族が暮らすという旧民生一村を一通り歩き回ったあと、次の集落へ向かう前に念願だった達卡努瓦神社の跡地に立ち寄った。「立ち寄った」と書くとちょいと足を延ばしたぐらいに思われそうだが、達卡努瓦神社の本殿跡は思いのほか標高が高く、連日の猫散歩で疲弊した足腰には大きなダメージだった。バスが発車するまで時間があったので、急ぐ必要がなかったのは幸いだったが、次に訪ねた旧民生二村もまた急傾斜地にあり、今回の猫旅はここで体力的にとどめを刺された感じだった(達卡努瓦神社の写真はこちら)。
 猫には会えたので目的は達したけど。
高雄市の猫

高雄市の猫

 屋根の上に茶色いのを見つけて近寄ったら、どこからかキジ白も飛び出してきたでござる。
高雄市の猫

 こちらは布農ブヌン族が暮らす集落。さっきの集落より猫密度は低いみたいだけど、いちばん高いところまで上ってきてようやく2匹に会えた。
高雄市の猫

 尻尾が個性的な子。もう少し標高の低いところにいてくれるとありがたいんだけどね。
高雄市の猫

 2匹揃って舌を出しているのは何かの符牒?
高雄市の猫

高雄市の猫

 首にぶら下がっている赤い鑑札は狂犬病予防接種済みの印。台湾では猫にも義務づけられているのだそう。
高雄市の猫

 神社と旧民生二村の急登で棒のようになった足を引きずりながら、バス停のある卡那卡那富族の集落へ戻ろうとしていると、小学校の敷地を巡回中の猫に遭遇した。
高雄市の猫

高雄市の猫

 学校へ行くにもこの坂だからね。子供たちは平気だろうけど俺にはツライよ……。
高雄市の猫

 早いもので那瑪夏の猫もこれが最後。民家の敷地で若い茶トラを見かけたのは11時すぎだった。
高雄市の猫

 卡那卡那富族って200人ぐらいしかいなくて、卡那卡那富語の話者に至っては2012年の時点で4人しか残っていないというから、この言語で挨拶するのもきっとこれが最初で最後だね。Misu’ʉvʉ tasiarʉ! Cau Ripun iku、manmaan iku ka ngiau(おはようございます! 私は猫好きな日本人ですよ)。
高雄市の猫

 茶トラは突然現れた日本人を呆然と眺めている。しまった、あれは布農族だったか!
高雄市の猫

高雄市の猫

 甲仙行きH21路の発車まで2時間近くあったが、集落をぶらついていたら台南から来たという若いライダーに話しかけられ、翻訳アプリを介してあれこれ話しているうちにあっという間に時間が過ぎた。奥さんと子供がいて、長期休暇にならないとなかなか旅行に連れて行けないが、その時期の台湾はとても暑いので苦行だ、早く日本に行きたいというようなことを言っていた。最近の日本の夏は40℃に達することも珍しくないと伝えようとも思ったが、夢を壊してはいけないので黙っておいた。親切な人で、甲仙までバイクの後ろに乗っていかないかと誘ってくれたが、ゆっくり車窓を眺めていきたいのでと丁重にお断りした。台湾旅行では人の親切に接しないということがなく、壊れたおもちゃのように謝謝ばかり繰り返していると自己嫌悪に陥ってくるので、謝謝以外にもお礼のボキャブラリーを増やしておくべきと改めて思った。
 帰りのバスも早着して、甲仙では予定より1本早い高雄行きに乗れたため、高雄駅での乗り換え時間にだいぶ余裕ができた。死ぬほど腹が減っていてどうしてもカレーライスが食べたくなり、高雄ぐらいの都会ならあるはずと思って検索したら、その名もまさに「咖哩屋」という店がバス停から徒歩5分のところにあった(こちら)。体が日本食を渇望していたこともあって、ここで食べたカレーの美味さは帰国してから4ヶ月経った今も忘れられない。カレーを食べ終えて高雄駅へ向かう10分の間にも猫発見。
高雄市の猫

 奥の方には子猫と思しき小さいのもいた。さっきまでのジャングルとここが同じ高雄市内なんて信じられない。
高雄市の猫

 この子の毛色は微妙だけど、背中にレッドが入っているようだね。
高雄市の猫

 車の下のはお母さんかな。この子も背中にレッドが入っていた。
高雄市の猫

高雄市の猫

 高雄17:26発の区間快車(快速列車)に乗り、次に立ち寄ったのは枋寮。この日の宿泊地は玉里で、早いところ宿に入って寝たい気持ちもあったが、駅前にこの子がいると分かっていて素通りすることなんてできない。まるで2年前からずっとそこで寝ていたみたい。
枋寮郷の猫

 はにゃーんとしている。3月の夜は猫にとってもちょうどいい塩梅。
枋寮郷の猫

枋寮郷の猫

 そんな俺たちの様子を背後で眺めているのもいた。この子も同じく2024年3月以来の2年ぶり。枋寮には去年もイカ焼きでお腹を壊した時に来たけど、この子たちは夜にならないと出てこないんだよなあ。
枋寮郷の猫

枋寮郷の猫

 駅前の洋品店で猫を見かけたのはいつのことだったか。初めてカメラに収まったのは2023年3月のやはり夜。暑い日中はどこかに隠れていて、涼しい夜になると地上変圧器に乗っかって寝ているようだ。
枋寮郷の猫

 先月中旬、この写真をA3判のカレンダーにして洋品店の主人宛に送ったら、その店の娘さんから「届きましたよー」とお礼の国際電話がかかってきた。日本語の上手な人で、家族で喜んでくれたようなので送って良かった。
枋寮郷の猫

 枋寮では次の電車まで1時間半ほどあったので、中山路のまだらさん漁港の黒白のねぐらも覗いてみたが、予想以上に真っ暗で何も見えなかった。
 枋寮を19:56に発車した花蓮行き自強号は、22:14に宿泊地の玉里に到着。疲れ果てて辿り着いた宿には予約を忘れられていて、翻訳アプリで抗議したものの希望していた個室に空きはなく、ドミトリーならあるというのでそこにせざるを得なかった。想定外事象で調子が狂ってしまい、個室ならパスポートや財布などの貴重品をどこに置くかだいたい決めてあるのに、この時は無造作に布団の上にでも放り出したのかも知れない。あるいは宿の従業員に乞われて渡したパスポートを返してもらったか確認を怠ったのかも知れない。本来ならこれが台湾猫旅最後の夜になるはずだったのに、台北で余計に2泊しなければならなくなるとは、この時まだ想像だにしていなかった。
 2026年台湾猫旅シリーズは残り3回(続く)。 枋寮郷の猫

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