猫の毛色と遺伝

■ もくじ


■ はじめに


  • 現在、各毛色の紹介ページ(毛色いろいろ)の大部分が準備中です。順次進めて参りますので今しばらくお待ちください。
  • このページは、小学生までは理科が得意だったものの、その後遊びを覚えて没落した管理人が、付け焼き刃的に勉強して書いたものです。したがって、内容が正しいとは限らないことにご注意ください。
  • このページをご覧いただくにあたって、メンデルの法則を復習されると、より理解が深まります。
  • 毛色の名称は生物学で定義されているものではなく、管理人が便宜的に使用しているものです。
  • 猫の毛色は外観で判定しているため、誤って分類している場合があります。
  • このページは以下の書籍を参考にして記述しました。
    • ネコの毛並み ─毛色多型と分布─(野澤謙/裳華房)
    • ネコと遺伝学(仁川純一/コロナ社)
    • ネコと分子遺伝学(仁川純一/コロナ社)

■ イエネコの祖先


 私たちが普段街なかで見かけ、「ねこ」と呼んでいる動物は、学名をFelis silvestris catus、標準和名をイエネコといい、ネコ科ネコ属ヤマネコ種イエネコ亜種に分類されています。野生種であるリビアヤマネコ(Felis silvestris lybica)が家畜化してイエネコになったとされ、その起源は人類が農耕型生活を始めた9500年前ごろと言われています。ネズミから農作物を守るために、人類がリビアヤマネコを飼い慣らしたのか、それともリビアヤマネコが自ら進んで人類と共生を始めたのか、まだ分かっていないそうです。

■ キジトラは基本型


リビアヤマネコ
リビアヤマネコ(Wikipediaより)
キジトラ
キジトラ(東京都府中市)

 上の写真から分かるように、色といい、胴体や尻尾の縞模様といい、リビアヤマネコとイエネコのキジトラは本当にそっくりです。このような毛皮の模様は、一本一本の毛が黒と褐色の層になっていることで発現します。こうした毛色を「アグチパターン」といいます。多くの哺乳類がアグチパターンの被毛を纏っていますが、名称の由来になったのはアグチというネズミの一種です。イエネコの中ではキジトラがアグチパターンを持っています。このように、対象の生き物において、自然環境下で多数を占める標準的な形質のことを「野生型」といいます。

 家畜というのは、人間が利用しやすいように馴らされ、管理されている動物を差す言葉です。歴史上最も早く家畜化したと言われている犬(イエイヌ)の主な利用目的は狩猟で、そのために長い時間をかけて訓練を重ねたり、品種改良を目的とした交配が行われてきました。一方、猫の場合は放っておいてもネズミを捕るので、訓練や品種改良は不要です。その代わりに猫では、愛玩動物として毛色の美しさが珍重され、そのための交配が行われるようになりました。
 例えば最も古い血統猫とされるペルシャは、16世紀にトルコからイタリアに渡った1匹の長毛猫がルーツと言われており、それから約300年後の1871年には、イギリスで初めて開催されたキャットショーにおいて、黒、灰、白の個体が出陳されています。メンデルが遺伝の法則を発表したのが1866年ですから、猫の繫殖家たちは恐らくそれよりも前に、毛色の遺伝の法則を経験的に会得していたのではないかと思います。メンデルの研究成果が認められたのは発表の半世紀後だったからです。

 その後、そうした繫殖家の経験はメンデルの遺伝学で説明され、W、A、B、C、T、I、D、S、Lという、9種類の遺伝子の働きであることが分かってきました。この時点で野生型のキジトラは下記の遺伝子型で表されていました。
 なお、O遺伝子座のカッコ外はメス、カッコ内はオスの遺伝子型です。O遺伝子座はX染色体(性染色体)上にあるので、このような表記にしています。緑のマーカーは毛の長さに関する遺伝子です。このページでは毛の色と模様についてのみ解説し、長さについては触れません。

ww oo(oY) A- B- C- T- ii D- ss L-

 上記のうちT遺伝子座は、模様に関する遺伝子が格納され、その遺伝子型によってトラ、渦巻き、霜降り、斑点といった模様が発現するとされてきました。しかし近年の分子遺伝学の発展により、トラと渦巻きは同じ遺伝子座の遺伝子変異ですが、霜降りと斑点については、それぞれ異なる遺伝子座の遺伝子変異であることが分かりました。
 そのため現在は歴史あるT遺伝子に代わり、トラと渦巻きはMc、霜降りはU、斑点はSpという、新しい遺伝子記号が提唱されています。このページもそれに従って、野生型のキジトラの遺伝子型を下記のように11種類の遺伝子記号で表記します。なお、色に関する遺伝子模様に関する遺伝子を区別するため、表記順も変えています。

ww oo(oY) A- B- C- ii D- ss Mc- spsp uu

■ 各遺伝子の働き


W(White)
  • 対立遺伝子:W、w
  • 優劣:W>w
  • 上位遺伝子座:なし
  • 野生型:ww
  • 白 W遺伝子座はB1染色体上にあることが分かっていますが、W遺伝子はまだ同定されていません。この遺伝子の働きは極めて強力で、優性のWであれば無条件で被毛が真っ白になります。W遺伝子は、毛色に関する遺伝子の中で最上位です。
     W遺伝子による白猫の体の一部に、ごく薄くて小さな色斑(主に灰色)の生じる場合があります。これはゴーストマーキングと呼ばれ、W遺伝子が元の毛色を完全に上書きできずに起きる現象です。頭部に現れるものを特にキトンキャップと言い、その名の通り子猫の時期に現れ、成長とともに消えるとされていますが、外の猫を観察していると、年齢を重ねても残り続けている個体をたまに見かけます(写真はゴーストマーキングとオッドアイを持つ白猫)。
O(Orange)
  • 対立遺伝子:O、o
  • 優劣:O>o
  • 上位遺伝子座:W
  • 野生型:oY(♂)、oo(♀)
  •  O遺伝子はまだ同定されていません。この遺伝子はすべてのユーメラニン(黒系の色素)をフェオメラニン(赤黄系の色素)に置き換えます。毛色に関する遺伝子の中ではW遺伝子の次に上位です。ほかの遺伝子座がすべて常染色体上に存在しているのに対して、O遺伝子座は性染色体であるX染色体上にあるため、オスとメスで発現の仕方が異なります(伴性遺伝といいます)。
     オスの性染色体型はXYですから、X染色体上にあるO遺伝子座の対立遺伝子を一つしか持つことができません。遺伝子型はOYかoYのどちらかです。被毛が茶色くなるのはOYの時です。一方、メスの場合は性染色体がXXですから、遺伝子型はOOかOoかooの三通りです。このうち被毛が茶色になるのは、優性ホモ接合のOOの時です。優性の法則からすればヘテロ接合のOoでも茶色になりそうなものですが、この場合は茶色にそれ以外の色が混じります。
     哺乳類では、X染色体が2個あると、受精直後の細胞分裂の時に、どちらか片方の遺伝子発現が抑えられます(不活性化といいます)。不活性化は細胞ごとにランダムに起こるので、Ooの場合、O遺伝子の働く細胞と働かない細胞がそれぞれ成長します。不活性化した細胞はO遺伝子が働かないので、本来下位だったAやBといった遺伝子の働きが現れて、キジ色や黒が混じります。この状態の猫がいわゆる二毛です。
     O遺伝子により茶色を発現すると、一本一本の毛に茶→白→茶という色の層が生じるため、その部分は必ず模様を伴います。
A(Aguti)
  • 対立遺伝子:A、a
  • 優劣:A>a
  • 上位遺伝子座:W、O
  • 野生型:AA
  •  A遺伝子座はA3染色体上にあることが分かっていますが、A遺伝子はまだ同定されていません。A遺伝子は一本一本の毛に黒と褐色の層を生じる「アグチパターン」を形成します。
     猫に限らず、生物の色彩はメラニンという色素から作られています。メラニンには黒系の色素であるユーメラニンと、赤黄系の色素であるフェオメラニンの2種類があり、どちらもメラノサイトと呼ばれる色素細胞で作られています。メラノサイトは基本的に黒系のユーメラニンを生成しますが、ある特定のタンパク質(アグチシグナルタンパク)と結合すると、赤黄系のフェオメラニンに切り替わります。アグチパターンは、アグチシグナルタンパクが作用して、生成される色素がユーメラニン→フェオメラニン→ユーメラニンと切り替わることで発現します。つまり一本一本の毛が成長とともに一定の幅で黒→褐色→黒と変化するのです。
     この遺伝子座が劣性ホモ接合aaの場合、アグチシグナルタンパクが変異して、メラノサイトと結合できなくなります。その結果メラノサイトが生成するのは黒系のユーメラニンだけになり、一本一本の毛は黒一色になります。
B(Black)
  • 対立遺伝子:B、b、bl
  • 優劣:B>b>bl
  • 上位遺伝子座:W、O
  • 野生型:BB
  •  B遺伝子座はD4染色体上にあり、B遺伝子はTYRP1遺伝子であることが分かっています。
     優性のB遺伝子はユーメラニン(黒系の色素)の生成を正常に行わせ、その結果毛色は黒になります。劣性対立遺伝子はbとblの2つがあり、いずれもユーメラニンの生成量を低下させます。具体的にはbbまたはbblでチョコレート、最劣性のblblでより薄いシナモンに変化します。黒猫はもちろん、黒白猫や三毛猫の黒い部分、アグチパターンの黒縞部分など、黒色のすべてが影響を受けます。
C(Colorpoint)
  • 対立遺伝子:C、cb、cs、cm、ca、c
  • 優劣:C>cb=cs>cm>ca>c
  • 上位遺伝子座:W
  • 野生型:CC
  •  C遺伝子座はD1染色体上にあることが分かっていますが、C遺伝子はまだ同定されていません。
     優性のC遺伝子は毛色に影響を与えません。劣性対立遺伝子は現時点でcb、cs、cm、ca、cの5つが仮定されています。いずれも色素形成の出発点となるチロシナーゼという酵素が働かなくなり、被毛は白くなりますが、この酵素は温度によって活性が変わる性質を持っており、体温の低い部位はより活性化して色や模様が濃くなります(温度感受性アルビノ)。
     C遺伝子座の劣性対立遺伝子が引き起こすこれらの毛色を総称して「カラーポイント」といいます。遺伝子型により様々な毛色のバリエーションが生じます。劣性に近づくほどチロシナーゼの活性が低く、色素形成が弱まり、最劣性のccでは真っ白なアルビノになります。色素形成は体温だけでなく気温にも影響を受けるため、寒い季節は毛色が濃くなる傾向があります。また、高齢の猫も毛色が濃くなる傾向があります。
     C遺伝子座の劣性遺伝は、もともと我が国には存在しませんでしたが、現在では市井の野良猫にまで広く浸透しています。優性の法則により外見は普通の毛色に見えても、潜在的に(つまりヘテロ接合Ccsなどで)劣性遺伝子を持つ個体が非常に多いのです。その原因は、高度経済成長とともに起こったシャム猫の大流行にあります。第二次世界大戦後、進駐軍によってもたらされたシャム猫は、スピッツ犬とともに、我が国に一大ペットブームを巻き起こしました。当時、猫を室内飼いする家庭は少なく、流行の裏で捨てられる個体も多かったと思われ、それらが交雑を繰り返した結果、カラーポイントは街なかで頻繁に見られるようになりました。野生型の優性ホモ接合CCの遺伝子型を持つ個体の割合は、相当程度減少しているものと思われます。
I(Inhibition)
  • 対立遺伝子:I、i
  • 優劣:I>i
  • 上位遺伝子座:W、O
  • 野生型:ii
  • ターニッシュとチンチラシルバー I遺伝子座はD2染色体上にあることが分かっていますが、I遺伝子は同定されていません。I遺伝子座の野生型の遺伝子型は劣性ホモ接合のiiで、この場合は毛色に影響を与えません。
     I遺伝子座の遺伝子型が優性のI-に変異すると、赤黄系の色素であるフェオメラニンの生成が阻害され、被毛の褐色部分の黄色味が抜けて白くなります。これを野生型のアグチパターンに当てはめた場合、iiでは一本一本の毛に先端から黒→褐色→黒の順で色層があり、生え際は褐色だったものが、I-では一本一本の毛の色層が黒→白→黒に変わり、生え際は白になります。この毛色は全体的に銀色風に見えるので、シルバーと呼ばれます。
     この遺伝子により毛色が変化した時、時折現れる特徴的な表現型に、「ティッピング」と「ターニッシュ」があります。ティッピングは毛の生え際が白く大きく抜ける現象で、ワイドバンド遺伝子と呼ばれるWb遺伝子座が優性のWb-の時に現れるとされています(同定されていません)。ターニッシュはシルバーなどの被毛の一部に赤毛が混じる現象です。原因は分かっていません。上の写真はターニッシュを生じた子猫(手前)と、ティッピングを生じた成猫(奥)です。
D(Dilution)
  • 対立遺伝子:D、d
  • 優劣:D>d
  • 上位遺伝子座:W
  • 野生型:DD
  •  D遺伝子座はC1染色体上にあり、D遺伝子はメラノフィリン遺伝子と同定され、劣性変異はこの遺伝子のΔ1変異であることが分かっています。
     優性のD遺伝子は毛色に影響を与えません。劣性遺伝子がホモ接合ddに変異した場合は被毛全体の色が薄くなります。劣性遺伝子は成長中の被毛に対する色素の輸送と定着に関するタンパク質(メラノフィリン)に影響します。優性遺伝では色素粒子が均等に分散しているのに対し、劣性遺伝では色素粒子が凝集し、結果としてまばらになるため光の吸収率が下がり、より明るく(薄く)見えます。色素の生産量が少なくなるとか、色素自体が薄い色になるわけではありません。
     一例として、黒が薄まると灰色、茶色が薄まるとクリーム色になります。
S(Spotting)
  • 対立遺伝子:S、s
  • 優劣:S>s
  • 上位遺伝子座:W
  • 野生型:ss
  •  S遺伝子座はB1染色体上にあることが分かっていますが、S遺伝子は同定されていません。S遺伝子座の野生型の遺伝子型は劣性ホモ接合のssで、この場合は毛色に影響を与えません。
     S遺伝子座の遺伝子型が優性ホモ接合のSSに変異すると、体表の広い範囲に白斑が生じ、ヘテロ接合のSsに変異すると、胴体の一部や四肢などの狭い範囲に白斑が生じます。
     この遺伝子の上位にあるのはW遺伝子だけです。白猫以外のすべての毛色の猫に白斑の生じる可能性があります(白猫に白斑があっても分かりませんが)。キジトラ+白斑でキジ白、黒猫+白斑で黒白、二毛+白斑で三毛というように毛色が変わります。
     白斑は主に家畜化した動物に見られる特徴の一つで、「家畜の表現型」とも呼ばれています。猫だけでなく、犬、牛、馬、豚などの哺乳類のほか、ニワトリなどの鳥類や、金魚や鯉などの魚類にも見られます。
     白斑に関しては一つの遺伝子だけで説明できない遺伝が多く存在します。例えば、ロケットペンダントと呼ばれる胸元の小さな白斑や、ホワイトミトンと呼ばれる四肢の先端の白斑などは、S遺伝子とはまったく異なる遺伝子が関与している可能性がありますが、まだ解明されていません。
Mc(Mackerel Tabby)
  • 対立遺伝子:Mc、mc
  • 優劣:Mc>mc
  • 上位遺伝子座:Sp、U
  • 野生型:McMc
  •  Mc遺伝子座はA1染色体上にあり、Mc遺伝子はリーベリン遺伝子と同定され、劣性変異はこの遺伝子に4つの変異が見られることが分かっています。
     この遺伝子は模様の形状に影響を与えます。Mc遺伝子座の遺伝子型が優性のMc-の時に縦縞のトラ模様(マッカレルタビー)になります。ただしヘテロ接合体のMcmcでは縦縞模様がやや乱れます。劣性ホモ接合体のmcmcの場合は渦巻き模様(クラシックタビー)になります。
Sp(Spotted Tabby)
  • 対立遺伝子:Sp、sp
  • 優劣:Sp>sp
  • 上位遺伝子座:U
  • 野生型:spsp
  •  Sp遺伝子座が格納されている染色体は、解明されているかどうかを含め未調査です。変異遺伝子も同様に不明です。
     この遺伝子は模様の形状に影響を与えます。Sp遺伝子座の遺伝子型が優性のSp-の時に、模様を途切れさせる働きをします。この遺伝子はMc遺伝子より上位であり、途切れた模様は結果的に斑点状に見えるのです。
     血統種のベンガルはまったく異なる遺伝子が関与しています。
U(Unpatterned Tabby)
  • 対立遺伝子:U、u
  • 優劣:U>u
  • 上位遺伝子座:なし
  • 野生型:uu
  •  U遺伝子はB1染色体上にあることが分かっていますが、U遺伝子は同定されていません。
     この遺伝子は模様の形状に影響を与えます。U遺伝子座の遺伝子型が優性のU-に変異すると、模様がほとんどなくなったり、四肢や尻尾に限られるようになり、全体的に毛色は霜降り状態に変化します。一見、無地のように見える模様ですが、れっきとしたアグチパターンを持っています。O遺伝子座に優性遺伝子Oが含まれるならば、茶色い部分の一本一本の毛には茶色と白の層が生じます。

■ 毛色の分類とサンプル写真


 このページの冒頭でキジトラ(野生型)の毛色の遺伝子型を紹介しましたが、巷には大変多くの毛色の猫が存在します。これらの大部分は上記で紹介した11種類の遺伝子、W、O、A、B、C、I、D、S、Mc、Sp、Uの組み合わせで表現できる毛色です。
 11種類の遺伝子のうち、C、D、Sの三つは、ほかの遺伝子発現に対して修飾的に作用します。コンピュータグラフィックに例えると「レイヤー」的な発現の仕方で、例えばカラーポイントが生じるということは、体温の低い部位の不透明度が下がる(色が濃くなって原画に近くなる)ようなものですし、白斑が生じるということは、原画に不透明度100%の白いレイヤーが重なったと考えれば、分かりやすいのではないかと思います。毛色の希釈はグラフィックの明度を上げることに例えられます。
 以上を踏まえ、このページでは管理人の見解において、猫の毛色を以下のように分類しています。表の毛色名をクリックすると、各毛色の専用ページ(毛色いろいろ)を表示します。専用ページでは管理人が今まで撮り溜めた写真を用いて、毛色の遺伝子型と簡単な解説をしているほか、C遺伝子座の劣性遺伝によりカラーポイントを生じた場合についても紹介しています(遭遇できていない毛色の写真はありません)。 

1. 模様のないもの(無地、ソリッドカラー)
  •  模様のない猫は、一本一本の毛も単色です。白はW遺伝子(稀にSSやcc)によって発現する毛色で、すべての毛色の上位に位置するため、バリエーションは存在しません。黒についてはB遺伝子座の変異(劣性遺伝)により、チョコレートとシナモンというバリエーションが存在します。これらは以下の表1にまとめました。
    • 白猫の大部分はW遺伝子座の遺伝子が優性のW-に変異したものです。W遺伝子は猫の毛色の遺伝子の中で最上位なので、ほかの毛色の遺伝子型がどうであっても、Wが1個あるだけで、毛色は必ず真っ白になります。そのほか、C遺伝子座の遺伝子が最劣性のccに変異すると、完全なアルビノとなって毛色が真っ白になります。S遺伝子座の遺伝子が優性ホモ接合のSSに変異して、白斑が全身に及んだ場合も、毛色は真っ白になります。後者の二つは極めて稀です。
    • A遺伝子座の遺伝子型が劣性ホモ接合のaaに変異すると、黒系の色素であるユーメラニンしか生成されなくなり、一本一本の毛は真っ黒になり、当然のことながら被毛全体も真っ黒になります。黒には以下のバリエーションが存在します。
      • チョコレート
      • シナモン

表1(サンプル写真へのリンク)
項番 野生型
(D- ss)
希釈
(dd ss)
白斑
(D- S-)
希釈+白斑
(dd S-)
1-i
1-ii 黒白 灰白
1-ii-a チョコレート ライラック
(準備中)
チョコレート白 ライラック白
(準備中)
1-ii-b シナモン
(準備中)
フォーン
(準備中)
シナモン白
(準備中)
フォーン白
2. 模様のあるもの(タビー)
  •  模様のある猫をひとまとめにして「タビー」といいます。タビーは一本一本の毛に色の層があることで発現します。タビーの猫は背筋の毛色が濃く、お腹の毛色が薄くなるという特徴があります。これは「逆影」と呼ばれる保護色の一つで、空から太陽光や月明かりを浴びる野外において、コントラストを低くして目立ちにくくする働きを持っています。また、タビーの猫は口元の毛色が白っぽく抜ける傾向があります。野外の猫の観察において、無地と霜降りが判別できない時など、こうした特徴を思い出せば見分けることができます。
     タビーの猫の被毛は「色」と「模様」という二つの要素からなっていて、基本となる色は3種類、模様は4種類あります。それらを組み合わせた12種類に野生型、希釈、白斑、希釈+白斑が存在し、計48種類の毛色を並べたのが表2です。
  • キジ
    • 野生型です。遺伝子型はww oo(oY) A- B- C- ii D- ssです。一本一本の毛に黒と褐色の層があります。こうした毛色をアグチパターンといいます。アグチパターンは、毛の成長とともに、ユーメラニン→フェオメラニン→ユーメラニン、つまり黒→褐色→黒の順に色素が生成されます。色の層の割合によって一定の模様が生じます。色素を生成する器官をメラノサイトといいます。ユーメラニンとフェオメラニンの切り替えは、色素を生成するメラノサイト自身ではなく、アグチシグナルタンパクの働きによって行われます。英語ではbrown tabbyといいます。
    • I遺伝子座の遺伝子型が優性のI-に変異すると、一本一本の毛色の構成が褐色+黒から白+黒に変わり、毛の生え際の色は白く抜けます。全体的に銀色っぽく見えることから、銀またはシルバー(silver tabby)と呼ばれています。この毛色は、ほかの修飾遺伝子の作用により、生え際の白抜けの幅が大きくなる場合があります。この現象をティッピングといい、中でも白抜けがそう大きくないものをスモーク、中程度のものをシェード、極めて大きなものをチンチラといいます。チンチラともなると毛の大部分白で、元の毛色(黒)は毛の先端に少ししか残らないため、通常のシルバータビーとは外見的にかなり異なります。それ以外のティッピングはシルバータビーと同一に扱われることが多いようです。
    • O遺伝子の項目で解説したように、この遺伝子は性染色体に格納されているため、オスとメスで発現の仕組みが異なります。簡単に言うと、O遺伝子座に劣性対立遺伝子oが含まれない時に、一本一本の毛が白と茶の層になります。管理人を含め、我が国ではこの毛色を茶と表現する人が多いのですが、猫には茶系の毛色がいくつもあるので、英語でred tabbyというように、日本語でも赤と呼ぶ方がより正確かと思います。メスは両親からO遺伝子をもらわなければ茶色になりませんが、オスは片方(性染色体のYは父親からもらうので必然的に母親)からもらえばいいので、発現率はオスの方が多くなります。一般的に茶猫の体が大きいと言われるのは、オスの方が多いからだと思われます。なお、茶猫はノンアグチであっても必ず模様が生じます。
模様
  • トラ
    • 野生型です。模様の遺伝子型がMc- spsp uuの時に縦縞模様を発現します。参考書籍の多くでは、縦縞模様を発現するのはT遺伝子座の優性対立遺伝子Tとしていますが、現在は変異遺伝子がA1染色体に存在することが分かり、Mc遺伝子座が割り当てられています。英語ではmackerel tabbyといいます。我が国においては最もありふれた模様です。
    • 模様の遺伝子型がmcmc spsp uuの時に渦巻き模様を発現します。英語ではclassic tabbyまたはblotched tabbyといいます。アメリカンショートヘアによく見られることから、渦巻き模様=アメリカンショートヘアと思っている人が多いのですが、これは金髪=アメリカ人と同様の誤ったイメージです。アメリカンショートヘアにはたくさんの色や模様があり、渦巻きはその中の一つに過ぎません。渦巻き模様は我が国ではさほど多くありませんが、ヨーロッパやアメリカなどでは、トラ模様と同じぐらいの割合で見られます。
  • 霜降り
    • U遺伝子座の遺伝子型が優性のU-の時に霜降り模様を発現します。英語ではticked tabbyといいます。霜降り模様は無地のように見えますが、アグチシグナルタンパクは機能しており、一本一本の毛にはちゃんと色の層があります。特に灰霜降り(blue ticked tabby)と無地の灰(blue)はよく似ていますが、タビーは口元の毛色が白っぽく抜けていることで見分けられます。東南アジアではありふれた模様ですが、我が国では血統猫でも飼わない限りなかなか見られません。
  • 斑点
    • Sp遺伝子座の遺伝子型が優性のSp-の時に斑点模様を発現します。英語ではspotted tabbyといいます。Mc遺伝子座の遺伝子型により、縦縞模様や渦巻き模様が途切れて、斑点のように見えます。血統猫ではエジプシャンマウが有名ですが、明瞭な斑点を持つ個体を野外で見かけることはほとんどありません。このブログのタグでも、よほど明瞭でなければ斑点には分類しないので、登場することは稀です。なお、血統猫のベンガルも斑点模様を持っていますが、こちらはSp遺伝子ではなく、まったく異なる遺伝子が関与しています。

表2(サンプル写真へのリンク)
項番 野生型
(D- ss)
希釈
(dd ss)
白斑
(D- S-)
希釈+白斑
(dd S-)
2-i-a キジトラ 灰トラ キジトラ白 灰トラ白
2-i-b キジ渦 灰渦
(準備中)
キジ渦白 灰渦白
2-i-c キジ霜降り 灰霜降り キジ霜降り白 灰霜降り白
2-i-d キジ斑点 灰斑点
(準備中)
キジ斑点白
(準備中)
灰斑点白
(準備中)
2-ii-a 銀トラ 灰銀トラ
(準備中)
銀トラ白 灰銀トラ白
(準備中)
2-ii-b 銀渦 灰銀渦
(準備中)
銀渦白 灰銀渦白
(準備中)
2-ii-c 銀霜降り
(準備中)
灰銀霜降り
(準備中)
銀霜降り白
(準備中)
灰銀霜降り白
(準備中)
2-ii-d 銀斑点
(準備中)
灰銀斑点
(準備中)
銀斑点白
(準備中)
灰銀斑点白
(準備中)
2-iii-a 茶トラ クリームトラ 茶トラ白 クリームトラ白
2-iii-b 茶渦 クリーム渦
(準備中)
茶渦白 クリーム渦白
(準備中)
2-iii-c 茶霜降り クリーム霜降り
(準備中)
茶霜降り白 クリーム霜降り白
(準備中)
2-iii-d 茶斑点
(準備中)
クリーム斑点
(準備中)
茶斑点白
(準備中)
クリーム斑点白
(準備中)
3. 二毛
  •  二毛の毛色は基本的に茶色+それ以外の二系統の色で構成されています。「それ以外の色」というのはキジか黒、あるいはそれらの派生色を指します。英語ではtortoiseshell(べっ甲)またはtortieなどと呼ばれています。
     二毛が二系統の毛色を併せ持つ理由は、O遺伝子が性別に依存する伴性遺伝だからです。
     O遺伝子座はX染色体上にあり、オスの場合は性染色体がXYなので、OYかoYの組み合わせしかできません。この場合は単純で、優性のO遺伝子を含むOYの時は茶色だけになり、そうでないoYの時は茶色をまったく発現しません。
     一方、性染色体がXXのメスには、OO、Oo、ooという三通りの組み合わせがあり、OOなら茶色だけになりますが、Ooの場合は茶色い被毛の中にキジ(A-)か黒(aa) が混じります。メンデルの優性の法則からすれば、ヘテロ接合体Ooの時は劣性遺伝子oの働きが抑えられ、茶色だけが発現しそうなものですが、伴性遺伝ではそうなりません。
     二毛が持つ二系統の毛色には以下の組み合わせがあります(表3)。分類番号は上で紹介した表1、表2に対応しています。

表3(サンプル写真へのリンク)
 
通常
(D- ss)
希釈
(dd ss)
白斑
(D- S-)
希釈+白斑
(dd S-)
トラ 二毛
(茶トラ+黒)
二毛
(クリームトラ+灰)
(準備中)
三毛
(茶トラ+黒+白)
三毛
(クリームトラ+灰+白)
キジ 二毛
(茶トラ+キジトラ)
二毛
(クリームトラ+灰トラ)
(準備中)
三毛
(茶トラ+キジトラ+白)
三毛
(クリームトラ+灰トラ+白)
(準備中)
二毛
(茶トラ+銀トラ)
(準備中)
二毛
(クリームトラ+灰銀トラ)
(準備中)
三毛
(茶トラ+銀トラ+白)
三毛
(クリームトラ+灰銀トラ+白)
(準備中)
二毛
(茶渦+黒)
(準備中)
二毛
(クリーム渦+灰)
(準備中)
三毛
(茶渦+黒+白)
(準備中)
三毛
(クリーム渦+灰+白)
(準備中)
キジ 二毛
(茶渦+キジ渦)
(準備中)
二毛
(クリーム渦+灰渦)
(準備中)
三毛
(茶渦+キジ渦+白)
(準備中)
三毛
(クリーム渦+灰渦+白)
(準備中)
二毛
(茶渦+銀渦)
(準備中)
二毛
(クリーム渦+灰銀渦)
(準備中)
三毛
(茶渦+銀渦+白)
(準備中)
三毛
(クリーム渦+灰銀渦+白)
(準備中)
霜降り 二毛
(茶霜降り+黒)
(準備中)
二毛
(クリーム霜降り+灰)
(準備中)
三毛
(茶霜降り+黒+白)
(準備中)
三毛
(クリーム霜降り+灰+白)
(準備中)
キジ 二毛
(茶霜降り+キジ霜降り)
二毛
(クリーム霜降り+灰霜降り)
(準備中)
三毛
(茶霜降り+キジ霜降り+白)
(準備中)
三毛
(クリーム霜降り+灰霜降り+白)
(準備中)
二毛
(茶霜降り+銀霜降り)
(準備中)
二毛
(クリーム霜降り+灰銀霜降り)
(準備中)
三毛
(茶霜降り+銀霜降り+白)
(準備中)
三毛
(クリーム霜降り+灰銀霜降り+白)
(準備中)
斑点 二毛
(茶斑点+黒)
(準備中)
二毛
(クリーム斑点+灰)
(準備中)
三毛
(茶斑点+黒+白)
(準備中)
三毛
(クリーム斑点+灰+白)
(準備中)
キジ 二毛
(茶斑点+キジ斑点)
(準備中)
二毛
(クリーム斑点+灰斑点)
(準備中)
三毛
(茶斑点+キジ斑点+白)
(準備中)
三毛
(クリーム斑点+灰斑点+白)
(準備中)
二毛
(茶斑点+銀斑点)
(準備中)
二毛
(クリーム斑点+灰銀斑点)
(準備中)
三毛
(茶斑点+銀斑点+白)
(準備中)
三毛
(クリーム斑点+灰銀斑点+白)
(準備中)

■「まだら」について


スモーク 猫の毛色の遺伝は複雑で表現型(見た目の違い)も無数にあり、これらを系統的に分類するのはとても難しく感じます。このページを作成するにあたって、なるべく多くの毛色を分かりやすく紹介しようと工夫しましたが、表1~表3の分類に収め切れない(しかし比較的多く観察されるため避けては通れない)毛色が少なくとも一つあります。それは「スモーク」「シェード」「チンチラ」と呼ばれる、ティッピングにより毛の生え際が白く抜けた毛色です。ティッピングを生じた猫は写真のように、毛色の色彩が不均一なまだら状になります。
 ティッピングの程度(幅)や規則性は、毛を産生する毛包から先端に至るまで、複数の異なる修飾遺伝子が関与していると考えられていますが、まだ解明されていません。短毛と長毛でも異なります。血統猫の繫殖家は便宜上、ティッピングの程度を司る遺伝子を、Wb遺伝子として運用しているようです。ティッピングのほかにも、一本一本の毛の色の層が混じりあって不鮮明になる「カオス」、隣り合う色の層の数や幅が変わる「コンフュージョン」、色班に白い毛が紛れ込む「ロアン」などなど、猫の被毛には知られざる遺伝子作用がまだまださくさんあります。
 ティッピングを生じる毛色の分類と遺伝子型の関係は表4をご覧ください。参考書籍やインターネット上の情報に加え、管理人の私見を加えて作成したので、内容が誤っている可能性がかなりあります。これらはまだ未解明であり、曖昧で悩ましく、分類することに意味があるのか自問することもしばしばです。ちなみにティッピングは中国語で毛尖色といいます(ティッピング猫のサンプル写真ページは準備中です)。

表4(サンプル写真へのリンク)
A遺伝子座 O遺伝子座 I遺伝子座 ティッピング
(Wb遺伝子座?)
表現型
(毛色)
備考
A- oo(oY) ii wildtype キジトラなど
I- smoked silver tabby スモークは判別困難
shaded silver tabby  
chinchilla silver tabby  
OO(OY) ii red tabby 茶トラなど
I- smoked cameo tabby スモークは判別困難
shaded cameo tabby  
chinchilla cameo tabby  
Oo ii tortie キジ三毛/麦わらなど
I- smoked tortie キジ三毛/麦わらのまだら
shaded tortie
chinchilla tortie
aa oo(oY) ii solid color 黒など
I- smoked black  
shaded silver  
chinchilla silver  
OO(OY) ii red tabby 茶トラなど
I- smoked cameo  
shaded cameo  
chinchilla cameo  
Oo ii calico 黒三毛/サビなど
I- smoked calico 黒三毛/サビのまだら
shaded calico
chinchilla calico
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