白が黒に


府中市の猫

 好評だというのでしばらく前に買っておいた「生き物の死にざま」という本を先日ゆっくり読んでみたが、書評から予想していたよりも遥かに情緒溢れる内容で、これをエッセイストや詩人が書いたならそんなものと納得するが、雑草生態学という生物学の一分野を専門にする大学教授が書いたそうだから、驚きを通り越して少し呆れてしまった。理系の研究者にロマンチストが多いことは知っているけれども、その肩書きで生き物の生態をああも情緒的に書いたのでは、一般ピープルがそれらへの接し方を誤るのではないか。
 例えばハサミムシについて綴った「子に身を捧ぐ生涯」と題された章には、産卵後の母親の献身的な生態について書かれている。ハサミムシは子育ての習性を持つ珍しい昆虫で、母親は40〜80日という長い時間、我が子である卵を丹念に手入れし、最後は孵化した子供たちに食べられて生涯を閉じる。そしてその章はこう締めくくられている。——子育てをすることは、子どもを守ることのできる強い生き物だけに与えられた特権である。そして数ある昆虫の中でもハサミムシは、その特権を持っている幸せな生き物なのである。そんな幸せに包まれながらハサミムシは、果てていくのだろうか——。
 当たり前のことだがハサミムシは幸せを求めてその生き方を選んだのではない。孵化した子供に自分の体を食べさせれば生存率が上がるだろうと考え、わざわざその眼前に体を横たえているわけでもない。ハサミムシというのはそもそも肉食性で共食いの性質を持っており、先に孵化した個体はまだ生まれる前の卵を食べてしまうし、弱ったり死んだりした母親の体があればそれも食べる。そのような性質を持った個体が生き残って交配を繰り返してきたから現時点ではそうなっていて、今後も長い時間をかけてさらに進化していく。
 ハサミムシを飼育している人は多くないだろうが、もしこれが見た目の愛らしい生き物だったら、哀れに思った人間が母親から卵を取り上げ、人工的に孵化させようなどと考えても不思議ではない。同様に巣から落ちた雛を拾って育てるとか、飢えた野生動物に餌を与えたりと、「可哀想」で対応していては際限がなくなる。そうするとどうなるかというと、本来死んでいたはずの個体が繁殖に参加し、系統樹が構築され、現在生息するのとは異なる性質を持つ生物種が「人為的に」発生し、周囲の生物との関係性にも影響を及ぼす可能性が生じる。つまり未来が変わるのである。市井の民ならまだしも、生物学者が情緒を煽って、こういうことが起きるような原因を作ってはいけない。
 ……というようなことを考えながら過ごした二連休の初日。今日は朝の散歩じゃないとなかなか会えない猫たちに会うべく、その第一段として腕木式信号機の猫拠点に出かけてきた。夜勤の時にもよく歩くコースだが、特に腕木式信号機や寝坊助四天王などは日中行っても留守のことが多く、会いたい気持ちが募っていた。
 夏至を過ぎたばかりで5時でも充分明るい近所の路地。黒煙ちゃんから国境警備を引き継いだ黒白が武蔵邸を見張っていた。
府中市の猫

府中市の猫

 しかし知らない人(俺)は苦手。こちらに気づくと敷地へ引っ込んでしまった。
府中市の猫

 近寄るとさらに奥へ。武蔵はまだ寝ているようだ。
府中市の猫

 寝坊助四天王の家にたどり着いたのは6時ちょうど。やっぱり夏の朝はしゃきっとしているね。
日野市の猫

日野市の猫

 以前は首輪をつけていなかったはず。今期から昇進したの?
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 四天王の残り3匹は見なくなった。それとも俺が会えないだけだろうか。
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 腕木式信号機の猫拠点で最初に見つけたのは二毛。目立たない場所なのでしばらく気づかなかった。
日野市の猫

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 夏毛になると印象が変わるなあ。2ヶ月半前はこうだったのに。
日野市の猫

 相方さんは元気ですかね。前回来た時、頭が傾いていたから気になって。
日野市の猫

 あれじゃないことは分かるけど。
日野市の猫

日野市の猫

 この子は初めて見る顔。新メンバーかな。
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 二毛とは折り合いが良くないみたい。白との接し方とはまるで違う。
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 君と知り合えたのは良かったけど、目的は完遂していないのでまた来なくちゃな。
日野市の猫

 白には会えなかったが、寝坊助と腕木式でおおむね満足したので、あとは適当にぶらぶらして帰るだけ。曇りがちなせいか、いつもは猫だらけの住宅街に猫影は薄い。
日野市の猫

 でもこの街は可愛らしいのが多くて好き。あの猜疑心に満ちた目つきなんか、ホントたまんない。
日野市の猫

「君はわざとそうして不審に振る舞っているの?」
日野市の猫

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 散歩は1時半で終了。分倍河原の駐輪場に預けていたからし号に乗り、帰宅の前にいくつかの猫拠点を覗いてみた。
府中市の猫

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 お水を飲み終えるまで気長に待って、振り向いたところを1枚。ここは昔から知る猫民家だが、間口が狭い割に奥行きがあって、猫がいても写真を撮れることがほとんどないので、いつの間にか足が遠のいていた。カメラを向けたのは2017年2月以来。
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 季節によっては敷地の奥で子猫たちが遊んでいたりもするが、その中にこの子が含まれていたのかどうか、今となってはもう思い出せない。
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