雨に祟られてまっすぐ帰宅する道すがら、お昼ご飯を買いに地元のスーパーに寄ったら、六花亭のバターサンドを見つけてしまって買わずにはいられなかった。欲望の赴くまま30個入りをネットで買うことはたまにあるが、今日のところは控えめに5個入りを選んで妻へのお土産にした。六花亭の製品は少なくとも帯広千秋庵の時代には函館では売られておらず、俺が食べたのは小学校4年生ぐらいの時、道東から父を訪ねてきた客人の手土産が最初だった。個人的には幼少期から食べていた沼の家の「大沼だんご」の方に郷愁があって、六花亭の包装紙を見ると大沼だんごが食べたくなるぐらい魂に刷り込まれているが、消費期限が極端に短いので地元でしか手に入らない。函館には国内線のLCCが就航していないので、団子のために赴くこともなかなか難しい。
猫の方は奥多摩〜高麗を掛け持ちした散歩の続きを紹介していく(前回の記事はこちら)。去年11月以来、半年ぶりに訪れた奥多摩猫集落は典型的な山村集落で、古くは氷川から日原そして秩父へと続く往還が通っていた。江戸時代までは木靴や白箸、川海苔やヤマメなどを産出し、農閑期には炭焼きで生計を立てていたようだが、今はそれらのすべてが産業として成立しない時代になり、限界集落として消滅を待っているような有様だ。この地にいつから猫がいたのかは分からないが、明治時代には養蚕が始まっていたようなので、遅くともそのころにはネズミ避けとして導入されただろうと想像している。俺が初めてこの地を訪れたころは急斜面に展開する集落に上下二つの猫民家があり、両方合わせて30〜50匹程度の猫が暮らしていたが、3年あまり前に上の猫民家が空き家になってからは急激にその数を減らした。去年11月の時点で残っているのは下の猫民家に6匹だけと聞いていたが、この日確認できたのは黒と黒白が1匹ずつ。しかも黒は極端に臆病でなかなか出てきてくれない。
この子は2020年春に上の縄張りで生まれた。初めて見かけたのはその年の10月下旬で、当時は同い年の兄弟がほかにもたくさんいた。その後、上の縄張りの主人が体調を崩して里へ下りてしまったので、難民化した猫たちは助けを求めて下の縄張りへ疎開することになった。
黒は黒白と同い年の兄弟で、初めて会ったのは黒白と同じ2020年10月。当時から臆病な性格だったが、兄弟の中には対照的な性格のもいた。特に印象に残っているのは、強力な咬合力で俺の左手に穴を開けてくれた人懐っこい黒(こちら)。
待っていてもきりがないからそろそろ行くよ。野生動物の多いこの場所では臆病な方が生き延びられると思うから、その調子で今後も頑張れ。
集落から見る山並みを瞼に焼き付けておこうと振り向くと、眼下に見える猫民家の窓辺にキジ白が張り付いていた。2021年10月に初めて見かけたあの子がこの集落で生まれた最後のグループだと思う。もしかしたら室内にはほかにも猫がいたのかも知れないが、今さら知ったところでもう来ることはないので、奥さんには声をかけずに次へ向かった。集落の産業を支えるネズミ番として猫たちが世代を紡ぎ、やがて一次産業の衰退や高齢化とともに斃れてゆき、消滅へ向かう様をこの目で見た15年間だった。
この日、奥多摩町内で訪ねた集落は小さいのを含めて7箇所あり、そのうち4箇所で猫に遭遇した。特に東京最果ての日原集落ではこの何年か空振りが続いていたので、見つけた時は思わず「いたー!」と声が出てしまった。何しろここまで来るのはホント大変で……。
大白斑の黒白には見覚えがあるけど、2019年9月に見かけたのとは別猫。ちなみにここで猫がカメラに収まったのもそれ以来。
鉢割れの黒白はたぶん去年の子猫。なぜそんなことが分かるのかというと、昨秋訪れた時にも小さな姿を見かけていたものの、逃げ足が速くてどうにもならなかったから。背後には兄弟と思しき灰白もいたけど、そちらはまるっきり歯が立たなかった。
この場所を初めて訪れた2016年12月にも薄色がいた。君はきっとあの子の子孫なのだろうね。
日原から20km離れた留浦集落で見かけたのは若い黒が1匹。タイミングだから仕方ないけど、前回は母子3匹と遭遇したのでちょっと淋しい。
6時間近く車を借りても氷川、日原、留浦を回るとなるとぎりぎりで、朝にも立ち寄った山腹トリオの駐車場に到着した時点で返却時刻まで40分しか残っていなかった。ここから青梅までは30分もかからないけど、たまこま前半戦はあの子が最後になりそうだな。
朝にも会ったばかりの黒白。「また来たの」というような顔つきでぽかんとしている。
もう1匹いるはずの黒白(こちら)はやっぱり出てこないみたいね。もうここへは来ないので、君からよろしく言っておいて。
12:00までの予約だったカーシェアリングの車を11:55に返却し、青梅から1駅だけ電車に乗ったあと東青梅でバスに乗り換え。東青梅駅近くの町中華で提供に時間のかかる酢豚定食を敢えて注文し、食べ終えて店を出れば発車時刻の13:00まであと10分しかない。我ながら惚れ惚れする旅程だなーと自惚れつつ飯能駅前には35分で到着。西武池袋線の電車に乗り換え、たまこま後半戦のスタート地点となる高麗に到着したのは14:01だった。気温は23℃ほどで穏やかだが、牛乳バトル会場の猫たちは絶賛お昼寝タイム中。
絶望する俺の気配を察したのか、寝ていたはずのチョコ白が出てきた。眠いところ悪いけど、ちょっとだけ相手しておくれよ。
たまこま後半戦は高麗〜高麗川を結ぶこまこま散歩。次回、お昼寝中の猫たちの反応や如何に!?