今回の猫旅はちょっと奇跡的というか、もし1日後ろにずれていたら旅程が崩壊して、にっちもさっちも行かなくなっていたらしいことが分かってきた。そう思うにはいくつかの理由があるが、初っ端にして最大のものが20日の強風による瀬戸大橋の全面通行止め。海上の高所に架る橋なので時々あることらしいが、この時は道路(瀬戸中央自動車道)だけでなく鉄道(瀬戸大橋線)も運休しており、もし出発日が1日遅い19日夜だったら、サンライズ瀬戸は岡山で運転打ち切りとなって身動きが取れなくなっていた。瀬戸大橋上を走るバスも運休だから岩黒島へ渡ることもできず、唯一通れた西瀬戸自動車道は遠回りすぎて無理なので、13時の通行再開をぼけっと待つほかなかっただろう。
もう一つの理由は22日の訪問地だった台湾・北港で行われた大規模なイベント。「白沙屯媽祖進香」と呼ばれるこのイベントは苗栗県通霄鎮の白沙屯拱天宮に祀られている媽祖様の神像を神輿に担ぎ、200km離れた雲林県の北港朝天宮まで9日間かけて往復するというもの。到達地の北港ともなると大変な人出で、今年は事前に登録されているだけで18万人という参加者があったそうだ。18日深夜に白沙屯を出発した神輿が北港に到着したのは23日の正午(つまり俺が訪問した翌日)。この日の北港は早朝から立錐の余地もないほどの賑わいで、街なかに車やバスが入ることはできないし、犬や猫を含むあらゆる動物はあまりの騒ぎにどこかへ隠れていたはずだ。21日の夜にこのイベントを知った俺は、平日にも関わらず西螺など付近一帯の宿が軒並み満員だった理由がようやく理解できた。宿に泊まるどころか、この夜すでに徒歩で北港を目指す人々が街のあちこちでテントを張ったり野宿していたからだ。
さて、媽祖進香の話はその時が来たらまた書くとして、19日昼の時点で俺はまだ日本から出ておらず、瀬戸内に浮かぶ小さな岩黒島で猫を探している。この24時間後に強風が吹き荒れるとは思えないほど穏やかな天気で、島の猫たちもまったり過ごしているように見えた(前回の記事はこちら)。
こちらは集落から少し離れた場所で見かけたキジトラ。さっきの猫たちよりも警戒心は強め。
キジ系ばかりの島だと思っていたら、意外にもポイントさんがいた。
背後に見える螺旋状の道路が島民専用のインターチェンジ。つまり本州や四国とは物理的に繋がっているわけだけど、こうした架橋って動物行動学的に影響はあるんだろうか。例えば津軽海峡にはブラキストン線と呼ばれる動物分布の境界線があって、もともと同一の種だった北海道のヒグマと本州のツキノワグマが、陸地の分離とともに分かれて進化するなどしている。高度な文明を持ち交通を発達させた人類でさえ、峠一つ海流一つ隔てるだけで言葉が変わったりするのだから、瀬戸内海に隔てられた本四やそこに浮かぶ島々で動物の分布が異なっていても不思議ではない。しかし青函トンネルが開通したからといってヒグマが本州に渡ったとは聞かないし、ゴキブリが札幌で繁殖したのは鉄道が運んだからとされている。橋が架ったぐらいで動物が自ら行き来することは難しいのかも知れない。このポイントさんも本四のどちらかから持ち込まれた個体の末裔なのだろう。
さらに1匹加わったところで時間切れ。逃げられたことでもあるし、バスに乗って次の散歩地へ向かおうっと。
岩黒島から乗ったバスを四国側最初のバス停で降り、大回りして坂出駅を目指すのがこの日最後の散歩。それが終わったら20km以上も離れた高松空港へ向かうことになるが、リムジンバスのダイヤは国内線の発着時刻に合わせているらしく、俺が乗る中華航空179便にはちょうどいい便がなかった。せっかくの四国散歩でもあるし、滞在時間は最大限に使いたいので、この時だけはタクシーを奮発することにしてタイムリミットを16時半に定めた。猫の方はやや難渋したが、鳴き声を頼りに最初のグループを発見。
地面のキジトラはとっとと逃げ、屋根の上の茶トラは不審者(俺)を睨みつけている。
面倒を見ているというおばさんによれば、足を怪我しているのだそう。逃げるのは負担だろうから近寄らないでおこうか。
どう頑張ってもこれ以上は近寄れない。田舎の猫はムズカシイ……。
湖のように穏やかな海を眺めながら歩いていると、行く手の路上で2匹の猫が手持ち無沙汰にしていた。
近寄ったら隠れちゃったけど、漁港が近いからか逃げ切らない。お魚をくれる人がいるのかな。
こちらのサビは目つきが期待に満ちている。毛色はやや薄めだけど黒い部分は普通に黒なので、希釈遺伝子が働いているのではなく、被毛の生え際の色が白く抜けるティッピングが生じているのだと思う。東京土産を一握りだけ進呈してその場をあとにした。
この日最後に見かけたのは宇多津町内を巡回中の黒白。おーい、待ってくれー。
きょとんとしてこちらを見上げる黒白のあと、坂出駅まで3匹ほど見かけたものの逃げられるなどして散歩は終了。タクシーに乗る前に郵便局でゆうパック用の段ボール箱を買い、台湾では暑くてとても着れない服たちをぱつぱつに詰めて自宅へ発送した。高松空港の国際線出発ロビーは隅の方にちんまりと設置されていて、ほぼ満員の179便は大部分が台湾人乗客で占められていた。12時間にも満たない短い滞在だった四国の街の灯は飛行機が上昇してからもしばらく見えていたように思ったが、あとで調べたらそれは福山や広島の市街地だったようだ。
次回は四国・台湾猫旅の2日目、新北市内で出会った猫たちから紹介していく。