馬祖南竿空港を離陸した飛行機は65分のフライトで台中空港に着くが、がら空きの機内で暇を持て余していた俺は、直線距離で220kmしか離れていないのにどうして1時間以上もかかるのだろうと考えていた。
例えばANAのジェット機は羽田から270km離れた八丈島まで55分かかっているが、所要時間の多くは広大な羽田空港内のタキシングだろう。試しにFlightradarである日のフライト記録を再生してみたところ、機体が動き出してから飛び立つまで11分かかっていたが、ドアクローズからだともっと長い時間がかかるはずだ。一方の立榮航空8732便はターボプロップ機とはいえ、空港が混雑することもないので、パイロットのチェックリスト確認が終わればすぐに離陸できる。なので帰国してからFlightradarで当日の航路を見てみたところ、馬祖南竿空港を離陸してから台湾本島に近づくまで東南東に飛んだあと、淡水の北西40kmぐらいのところまで来ていきなり90°近く右旋回し、南南西に進路を変えて台中空港へ向かっていることが分かった。つまり三角形の斜辺を飛べば近いのに、わざわざ対辺と隣辺をなぞって遠回りに飛んでいるのである。理由は分からないが、馬祖列島の周囲はデリケートなエリアなので、所要時間や燃料費が嵩んだとしても、とにかく一刻も早く離れたいということなのかも知れない。
台中空港に降り立ったのは2019年9月以来の二度目。国際空港であり日本路線もいくつか運航されているが、台中駅や台中市街から遠く離れた畑の中にあって交通の便はかなり悪い。今回も前回と同様にタクシーを利用し、縦貫線の台中駅や高鐵台中駅ではなく、西に4kmほど離れた縦貫線(海線)の清水駅へと車を走らせた。ここはちょうど鹿児島空港と中福良駅の関係に似ていて、知る人ぞ知る最寄り駅なのである。
今日はこれから鵝鑾鼻へ向かうので先を急ぐが、今回の旅行はとても天気に恵まれていてこの日も朝から雲一つない。清水駅から沙鹿駅まで2019年にも辿った道をなぞるくらいのことをしても、薄暮に追われることはなさそうだった。
台中市内の1駅散歩で始めに見かけたのはお散歩中の三毛。モデルさん募集中なんですけど、いかがですかー。
……で、こちらはお母さん? 南竿のサビといい、今日は女子率の高い日だな。
よく似た2匹はかつてのエビ子姉妹を思い出させる。あの子はいい子だったな。
俺に気づいて一度は近寄ってきたけど、我に返ったように遠くへ逃げてしまった。お腹が満たされているならリスクを取る必要ないもんな。
遠目にもふっくらしたお腹はおめでたかな。大人になったジジはこんな感じなのかしら。
沙鹿15:55発の苗栗行き区間車(普通列車)はデルタ線の成追線を経由し、高鐵との接続駅である新烏日には16:23の到着。17分の待ち合わせで高鐵に乗り換えて、終点の左營に着いたのはまだ明るい17:30だった。台湾最北端の西引島を朝早くに発ち、南竿から飛行機と高鐵で一気に400kmも南下してきたが、ここから先は路線バスでとことこ進んでいくことになる。といっても高鐵左營駅から途中の小灣までは墾丁快線と呼ばれる高速バス(9189路)が頻繁に運転され、全席指定のリクライニングシートなので快適そのものだ。旅の疲れを癒しつつ、足を止めずに移動を続けるにはうってつけで、青かった南シナ海が真っ暗になったと思ったらもう終点に着いていた。小灣でさらに9188路のバスに乗り換えるつもりが40分以上待つ羽目になったのはまあ仕方ない。しかし何となく虫が知らせて、来たバスに向かってただ手を上げるのではなく、スマホの光る画面を振り回して合図しているにもかかわらず、華麗にスルーされそうになった時は絶望のあまり気絶するかと思った。これに通過されたらもう1時間待たなければならない。「止まらんかいゴルァー」と怒鳴りながら必死でアピールしたら、30mぐらい通りすぎてようやく急ブレーキがかかり九死に一生を得た。車内の乗客が気づいて運転士に知らせてくれたのかも知れない。
鵝鑾鼻に来るといつもこれだ。2018年1月に来た時も小灣で待ちぼうけだった上に、ようやく宿にたどり着いたと思ったら予約を忘れられていて、出てきた息子に経緯を説明するのにえらい苦労した(こちらの記事)。物好きなことに俺は今回もその時の宿を予約しており、同じ轍を踏まないよう日本を発つ前に「我剛剛按計劃離開日本!」などとショートメールを投げている。当時高校生ぐらいだった宿の息子はすっかり大人びていて、翻訳アプリで7年ぶりですね覚えてますかと煽る俺を軽くあしらって自室へ引っ込んでしまった。とにかく朝6時に台湾最北端の宿を出発してから16時間、南へ500km離れた今夜の宿にたどり着くことができた。ここ鵝鑾鼻の龍坑民宿は台湾最南端の宿であり、ここでもやはり人間よりも先に猫が出迎えてくれたのである。
あくる3月22日(台湾旅行4日目)は6時起床。台湾最南端の地へ向けての散歩から始まった。
ねぐらなのか、それとも通り道なのか、廃材置き場と思しき場所に佇んでいたキジ白。この子が台湾最南端の猫。
ここ恆春鎮は毎年秋から翌春にかけて落山風と呼ばれる強い季節風が吹き荒れる。2018年1月に来た時も強風が吹きっ放しで、鵝鑾鼻では猫の子一匹見つけられずに敗退することになった。しかし今回はバス停で待ちぼうけしていた前夜から急に風が収まり、この日は風の谷のババ様もびっくりの好天に恵まれた。風を避けて隠れていた猫たちもこぞって被毛を乾かしに出てきていた。
左後肢が欠損しているけど毛並みはいい。鵝鑾鼻にも親切な人がいるのだね。
見慣れぬ日本人を見極めるかのような顔つき。どっちかというとマスクみたいな君の毛色の方が怪しくないですか?
鵝鑾鼻ではもう少しだけ猫を見かけたけど、構成の都合上、今日のところはこれでおしまい。最後に台湾最南端の地で撮った写真を紹介して終わりにする(こちら)。この続きはまた今度。