去年6月に抗癌剤治療を始めてからというもの、食欲減退と体重減少に悩まされていたマコちゃんだが、3月の台湾旅行から帰ったあと、食事や水をほとんど口にしない日が何日か続いた。2〜3日後には回復して普段通り食べるようになったが、その時に飲ませたプレドニゾロンが効いたからなのか、それとも単に留守番が淋しかったからなのか判断がつかなかった。そこでプレドニゾロンは今月4日を最後に一旦やめて、翌5日から10日間は新たに処方されたEntyce(=エルーラ)を飲ませ、さらに10日間は何も服用させずに様子を見たところ、過去に経皮投与していたミラタズや経口投与していたミルタザピンを始め、プレドニゾロンやEntyceを飲ませても食欲や体重は変化しないことが分かった。しかし鰯の素焼きや人間用の缶詰(塩分濃度0.8%程度の水煮)には鋭く反応し、食べすぎとも言える量を軽く平らげるので、普段あまり食べないのは健康上の理由というより、単なる偏食なのではないかと疑うようになった。とはいえ猫用に調整されていないものを与え続けるわけにはいかないし、このまま痩せていくのを指を咥えて眺めているのも忍びない。どうしたらいいのか答えを見つけられないまま、今は2匹とも最低水準の体重に落ち着いている。
さて、今日の台湾レポートは屏鵝公路とも呼ばれる台湾省道・台26線の南端近くから。起点の楓港から片側2車線で南下する立派な道路だが、ここから先は車線が減り、台湾最南端の鵝鑾鼻を過ぎると向きを180°変えて北上に転じる。道路向かいには大型バスも停められる広大な鵝鑾鼻灯台駐車場があって、土曜日のこの日は時間の経過とともに多くの観光客がやって来るはずだが、早朝の今はまだ人の姿も通る車もほとんどなく、近所の飼い猫がリラックスした様子で日なたぼっこに出ている。昨冬の台湾は気温が低く、今回の旅行でも西引島の宿では暖房を入れたくらいだが、さすがにここまで来ると明け方でも19℃ほどまでしか下がらず過ごしやすい。風の半島として知られる恆春半島にあって、せいぜい2〜3m/sと無風に近いのも助かった。
カーディガンを着込んでいるこの子は寒がりなのかしら。
天真爛漫な三毛の動画はこちら。よく動き回る子なので写真は諦めた。
次の猫はすぐに見つかった。2018年1月の猫旅では玉砕だったのに、風がないとこんなに違うもんかね。
フェンスの向こうは時空が違うらしく、いくら声をかけても薄い反応。これ以上は諦めて一旦宿に戻り、コンビニで買ったサンドイッチと茶葉蛋と木瓜牛乳で朝食にした。散歩している間にiPhoneのLightningケーブルが断線したらしく、充電できなくなっていたのでこちらもコンビニで買った。今や世界のどこへ行くにも必須となったスマートフォンなので、どんな田舎でもこうしたサプライ品を調達できるのはありがたい。なくしたり壊れたりした時のために、スマートフォンなしでも旅行を続けられる心積もりはしているが、できることは大幅に減るし相当な不便を強いられる。
台湾最北端から最南端まで500kmを縦断し、どちらの地点でもたくさんの猫に会えたので、今回の旅の目的は8割方達成した。あとは帰国の途につく高雄までだらだらと北上するだけだが、帰国日までもう1日あるので途中いくつかの街へ寄り道することにしている。一つ目は枋山郷の楓港村、次が獅子郷の内獅村と南世村で、最後はいつもの枋寮郷だ。三つの郷はいずれも台湾を代表するマンゴーの産地として知られ、獅子郷は住民の大部分が排湾族で占められているのも特徴。台湾の僻地は自然環境や原住民文化などに魅力を感じるが、ホンモノの僻地となると5日間の旅程ではとても足りないし、そもそもバイクや車がないと訪れることすら難しい。それに比べれば1日2〜3往復しか列車が止まらないとはいえ枋山や内獅には駅があるし、屏鵝公路には高雄〜鵝鑾鼻を結ぶ9188路のバスが頻繁に行き来している。過去の台湾猫旅で何度もお蔵入りになった土地を訪ねる機会がようやく巡ってきたわけである。
そんなわけで、広くて交通量の多い省道沿いに猫が寝ているなんてことも、降り立ってみて初めて知ったという次第。鵝鑾鼻から1時間、楓港國小というバス停をスタートしてから30秒後の出来事。
この集落は楓港村と善餘村という二つの村で形成されていて、どちらも清朝時代の1765年に大陸の泉州から移住してきた漢民族がルーツだそう。ちなみに楓港村には台湾前総統の蔡英文氏が幼少期に暮らしたとされる家が残っていて、中を見学することもできる。「蔡總統祖厝」と呼ばれるその家に向かうでもなく向かわないでもなく、ほかにあまり選択肢のない路地を歩いていると前方に猫が見えてきた。
近寄ってみると子猫というより小柄な若い猫だった。親睦を深めるまでもなく逃亡。
肯定的な反応! 毛色はキジ白のようにも見えるけど、尻尾の先端まで黒がまったくないことからチョコトラ白、いわゆる一つのchocolate mackerel tabby and whiteではないかと思う。同じ毛色を見たのは三宅島の1匹だけしかなく、白斑のないchocolate mackerel tabbyも上池袋の1匹だけ。とてもレアな毛色だ。
前総統の旧居には先客がいたので通りすぎざまに眺めるだけにして、しばらく歩いて元来た方を振り向くと小さな日陰に猫が隠れていた。
たった1時間の楓港散歩はこれでおしまい。バスが来るまで少し時間があったので、省道沿いの屋台でイカ焼きを注文したら、焼き上がるまで思いのほか時間がかかって、バス停まで全力疾走することになってしまった。もし間に合わなければ内獅をパスしても良かったが、枋寮だけはどうしても外したくなかった。駅前のキジトラは日が落ちないと出てこないので望み薄にしても、2018年1月に一度見かけたもう1匹には会いに行きたい。特に懐くわけでもない普通の猫だが、何年かに一度更新されるGoogleストリートビューにいつも写り込んでいて(こちら)、そうなると異国の地に居ながらにして何となく情が湧いてくるわけである。
次のスタート地点である内獅村口バス停に到着したのは11:45。屋台で買ったイカ焼きを頬張りつつ、広大なマンゴー畑の一本道を鼻歌交じりに歩いていると彼方に小さな集落が見えてきた。次回・最終回は呆気ない幕切れとなる!