10日ほど前からサチコの動きが鈍くなったのは想定内のつもりだった。疼痛緩和薬のソレンシアは効果が1ヶ月持続するとされていて、前回投与したのは4月18日だったので、10日前はちょうど効き目がなくなってくるころだった。それでも余裕かましていたのは、散歩に連れ出したサチコが積極的に地面を歩き回っていたからで、そうした体調の良さがソレンシアの効果なのか、それとも毎日服用している降圧剤や抗甲状腺薬の効果なのか見極めたくて、今月は敢えて投与を少し遅らせていた。
かかりつけ医を予約していた25日ごろには元気がなくなり食欲もかなり落ちていた。1ヶ月と1週間ぶりのソレンシア投与で回復してくれるだろうと思っていたが、結果は逆で食欲不振と衰弱がさらに進んだ。このままでは命にかかわると思って27日にもう一度受診したものの、採血や点滴などの負担が大きかったのか、それ以降は一日の大部分を寝床でじっとして過ごすようになり、口にするのはわずかな水だけで食べ物には目もくれなくなった。血液検査の数値が際立って悪いわけではなく、原因は不明で、老衰による終末期に入ったと理解するほかなかった。
強制給餌するならと獣医がk/d缶を持たせてくれたが、妻と話し合ってそれはしないことにした。力が強くて束縛を嫌うマコちゃんに比べれば、サチコの強制給餌が遥かに容易いことは分かっているが、人間換算104歳のサチコの胃袋に無理矢理食べ物をぶっ込むことは倫理に反すると思った。マコちゃんの時は抗癌剤の骨髄抑制を乗り切るという明確な目的があったから、猫にも飼い主にも辛い強制給餌に耐える意義があったが、旅仕度を整えている相手にそれをしてはいけないと俺の本能が訴えていた。あと数日頑張れば22歳の誕生日を迎えられるかも知れないが、生きるという意志の下にないその数日を無理に生かすことは、相手の尊厳を損なう行為だと思い直して、指ですくったウェットフードを蛇口の水で流した。
親よりも誰よりも長い時間を一緒に過ごしたサチコを看取る決断をした。初めて味わう悲しみを言語化できないし感情をどう処理したらいいのかも分からない。体に触れればしなやかで温かいのに、もうすぐ別れなければならないと思うと、涙が溢れてきて止まらない。
しかし飼い主の務めは果たさなければならない。心の準備だけでなく物理的な準備も必要なので、今朝は出勤前に慈恵院に寄って葬儀のパンフレットをもらってきた。マコちゃんがお世話になっている農工大の動物医療センターといい、府中というのは先進医療から葬儀まで市内でできるのだから、動物を飼う人にとっては心強い街だと思う。
以下に紹介するのは自宅から慈恵院までの間に見かけた猫たち。1匹目は黒。
とある古跡でご飯待ちの佇まい。何年か前にもここで黒を見かけた気がするが、検索しても出てこないので、写真は撮れなかったのかも知れない。
ここら一帯をシマにしている馴染の黒三毛。先月20日にも会ったばかりで、怪しいヤツと認識されているので接近不能。
逃げかかったところを呼び止めてもう1枚。こちらは前回から1年4ヶ月ぐらい経っているので、すっかり忘れられているようだ。
黒味の多い黒白と尻尾だけ黒い黒白のコンビ。この組み合わせも先月20日以来。
2016年4月からの長い知り合いだが懐く兆しはまったくなく、もう1匹の黒白に至っては近寄る素振りを見せただけで離れてしまう。
近寄ったら家の隙間に隠れてしまった。この子見たことあったかな。
最後に見かけたのは農家の敷地の長毛茶トラ白。舌を鳴らして呼んだら近寄ってきた。
鼻の頭にかすかな引っ掻き傷があるのでケンカ相手もいるのだろう。張り合いのある人生を歩んでいるようで何より。
今日の猫はこの子でおしまい。今夜からサチコと同じ部屋で寝る。