2泊3日の台湾猫散歩を何度かに分けて紹介してきたが、それも今回が最終回。天気に恵まれなかった初日、頭痛で動けなくなった2日目と、必ずしも予定通りの行動はできなかったが、それもこれも全部チャラになるぐらい、最終日はたくさんの猫に出会った。
帰国の途につくクリスマス・イブの日、鄙びた風情の漁師町・八斗子の猫たちを探して、細い路地に迷い込むまでを紹介したのが前回。ドピーカンとは行かなかったが、3日間で最もいい天気になったせいか、現地ではさらにもう1グループの猫たちに遭遇した。
移動販売車に集う主婦と猫たち。
地面に細かくちぎった肉片が撒かれていたので、移動販売車は肉屋さんかな。君たちはうちの猫よりいいものを食べているね。
華奢な感じの子猫。小柄だけど、キトゥンブルーが抜けているので、2ヶ月ぐらいかな。
モデルになってくれた三毛を傍目に、サビ母と茶トラは地面の肉を探すのに忙しそう。このトラックは移動販売車だと思っていたけど、見た感じ動くような気がしない。廃車利用の固定販売車かも。
最後はお約束の取っ組み合い。店の周りの猫と人間に挨拶して、その場をあとにしたところで13時となった。
せっかく漁師町に来たのだから、魚料理を食べようと思って探してみたが、これと思う店はみんな閉まっている。朝型の漁師町は店じまいが早いのかも知れないが、悠長に探す時間もないので、八斗街入口の交差点で見つけた合記焼腊店という食堂に入ってみた。腊という字の意味が分からなかったが、店に入って調理場を見ると、豚の干し肉を差すらしいことが分かった。しかし俺が食べたのは廣式烤鴨の定食(50元)。要するに北京ダックならぬ広東ダックとご飯がセットになったものだ。実を言うとそれが食べたかったわけではなく、メニューに書いてあったのを適当にメモって店主に見せたら、走り書きすぎて解読してもらえず、「ダック? ダック?」と連呼するので、つい頷いてしまったのだった。
ご飯を食べたあとはバス待ち。同じ交差点の角にあったバス停で、瑞芳か基隆に連れて行ってくれるバスを待ってみたが、やはり時刻表はなく、いつ来るかもはっきりしない。時間がなければこのまま空港に向かうつもりでいたが、もう少し前倒しすれば、あと1箇所ぐらいは寄り道できそうだった。
そんなわけで、次の移動も筆談タクシー。向かうは宜蘭線の暖暖駅。
暖暖駅に着いたのは14時すぎ。時間が余った時の寄り道先は事前にいくつか候補を出してあって、その中から暖暖を選んだのは、単に面白い地名だからだ。かつてこの辺りに凱達格蘭族という原住民の村があり、その村の名前を音訳して暖暖になったのだそうだ。北海道なんかも、語源となったアイヌ語に文字がないため、無理矢理漢字を当てた珍妙な地名や駅名が山ほどある。
無人駅の暖暖は街から少し離れた場所にある。細い道を線路沿いに歩いていると、荒れた民家の屋根の上からこちらを眺めているのがいた。
街の中心部にやって来ると、老街市場の隅に猫たちが集まっていた。
尖った耳がカッコいいキジ白。日本にもいそうな風貌だけど、この耳は大陸由来っぽいな。
「あなた、台湾は初めて? お寺が多くてびっくりしたでしょ。私たちの国にはお寺や廟がたくさんあって、色々な神様が祀られているの。ここは暖暖媽祖廟といって、祀られているのは、海の安全を守ってくれる、媽祖様という女神様。とても親しまれている女神様だから、みんな天妃娘娘なんて呼んだりもするの。あなたの国にも東京や横浜に媽祖廟があるから、ここを懐かしく思うことがあったら、行ってみるといいわ」
大あくびの黒白を誘ってみると、ご飯を期待したらしく、お寺の前にまろび出てきた。
「今天的飯菜是肉還是魚嗎?(今日のご飯はお肉かなー? それともお魚かなー?)」
停止したまま肉か魚を待つ黒白。動画も撮ってみた。
「反正你是兩手空空。我知道(どうせ手ぶらなんでしょ。僕知ってるよ)」
たくさんの猫に会えた暖暖散歩が終わり、あとは台北市内で1回乗り換えるだけとなった。台湾の猫もこれで最後かと、一抹の淋しさを感じながら、14:57発の希林行き区間車に乗った。
松山空港に行くにはいくつかの経路があるが、電車で台北まで出てしまうと、台北捷運(地下鉄)で乗り換えが1回増える。そのため、台北の二つ手前の南港駅で電車を降り、1.2kmほど離れた捷運南港展覧館という駅まで歩くことにした。
これが本当の台湾最後の散歩と思い、再開発の進んだ大通りで猫に会うのは難しいだろうとも思い、建物の裏を覗き込みながら歩いていると、意外にすんなり黒くて丸いものが見つかった。
寝ているところを悪いね。俺、もう日本に帰るんだけど、この国の人たちは親切で、食べ物も美味しいので、とても楽しい旅ができたよ。また来たいと思うけど、言葉が分からないと切ないから、今度はもう少し勉強してから来ることにするよ。その時まで、ここで待っていてくれよな。
羽田着は日本時間の22時。入国に時間がかかると、終電や終バスに間に合わなくなるので、ちょっと不安を感じていたが、着陸して飛行機のドアが開いてから、リムジンバスに乗り込むまで、かかった時間はわずか15分。台湾どころか海外旅行さえ初めてだったにしては、上々の首尾で旅を終えることができた。家に着いたのは日付が変わった0時半。俺の大切な二匹と一人が起きて待っていてくれた。
最後に、帰国してからの楽しみがまだ一つ残っているので紹介しとく。台湾で買い物すると統一發票と呼ばれるレシートを渡されるが、これは8桁の番号が印字された宝くじになっている。特別賞の当選金は何と1,000万元(約3,700万円)で、台湾人だけでなく、パスポートか居留証があれば外国人も受け取れる。俺が旅行した期間のレシートについては、今月25日に当選番号が発表されるので、当たったらまた行こうかなーなどと夢見ているわけである。