横浜線猫行脚8(十日市場→長津田)


横浜市の猫

 北海道の親元を離れて最初に住んだ街は、東急田園都市線の青葉台だった。説明が面倒なので、地元の友達には「東京に行く」と言ってあったが、もちろんここは東京都ではなく神奈川県横浜市だ。かといって当時の田舎者はテレビに映る港町としての横浜しか知らないわけで、あの山の中をそうイメージされるのも抵抗がある。俺なども高校生の時、授業中にいつも東京自慢する教師がいて、鼻につく野郎だなと思って聞き流していたが、あとで知ったそいつの出身地は何と秦野であった。函館市民で秦野を知る人は2%程度だと思うので、この嘘は仕方がない面もあるけれども。
 ……まあそんなことはどうでもいいんだが、今日の猫関係業務は横浜線猫行脚の8回目。十日市場から長津田まで、青葉台や田奈を絡めて12.3kmを3時間かけて歩いてきた。
 もう何度も書いたことだが、とにかく坂の多いコースであり、しかもこの辺りまで来ると宅地開発に東急の息がかかっているので、住宅街も小綺麗すぎて面白味に欠ける。地名も「ナントカ台」「ナントカ丘」のオンパレードで、バブルのころならイメージに惑わされる人もいただろうが、今となってはこれらの地名が単に山を意味しているだけであり、老人には住みにくいことがバレている。したがって猫も少ない。
 そんなわけで、ヘタしたら空振りに終わるかも知れないと危惧しつつ、それが次第に現実味を帯び、坂に次ぐ坂で体を蝕まれ、心が折れてだいぶ経ったころになって、ようやく1匹目に遭遇した。スタートから1時間半が経過していた。
横浜市の猫

 感涙にむせぶ俺。猫行脚のルールをおさらいしておくと、鉄道路線を片方向(今回は下り方向)に歩き、1駅間で3匹見つけないと次に進めない。こんな坂だらけのところにまた来るのはご免なので、見つけた時は心底嬉しかった。
横浜市の猫

 ふと気づくと、目の前の車の下にもいた。そして……、
横浜市の猫

 あんなところにも。もしかして巣窟に迷い込んだかな。
横浜市の猫

横浜市の猫

「いらっしゃいまし。巣窟へようこそ」
横浜市の猫

 逃亡した茶トラに代わって、2匹の猫が様子を見に現れた。
横浜市の猫

 こいつはまだらの黒白。こちらの出方を窺っている目つきだ。
横浜市の猫

 もう1匹はサバトラ。こっちの方が若く見えるが、意外に兄弟かも知れない。
横浜市の猫

横浜市の猫

 巣窟ではほかにも何匹かの猫が蠢いていたが、この辺りは敷地の広い邸宅が多く、中に入られてしまうと追い切れない。広い邸宅すなわち金持ちなわけで、防犯カメラの設置怠りなく、深追いすると通報されかねないので、大人しく次を探すことにした。
 そして7分後、路地を渡る茶トラ発見。
横浜市の猫

横浜市の猫

 巡回中だったらしく、少し振り向いただけで行ってしまった。
横浜市の猫

 山から下りて平らな土地にたどり着いた。体力はほぼ失われていたが、乾いた雑巾を絞るようにして歩いていると、民家の玄関先からこちらを眺めているのがいた。
横浜市の猫

 長毛キジ白。檻の中でウサギが寝ていたので、一緒に撮ろうと思ったら、その前に猫が逃げてしまった。
横浜市の猫

 天気は悪くなかったが、薄雲がかかって白んだ光。民家の敷地にはキジ白が佇んでいる。
横浜市の猫

横浜市の猫

 うーん微妙。三毛のようにも見えるけど、トラ模様に茶色い線がないから、キジ白だと思うんだがなあ。
横浜市の猫

 黒いの接近中。
横浜市の猫

 とことこ。
横浜市の猫

「君は見ない顔だね」
横浜市の猫

「一緒に遊びたいの? 別にいいけど、僕これからお出かけなんだよ」
横浜市の猫

「ちょっとだけね」
横浜市の猫

 人懐っこい黒の背後にも気配が……。
横浜市の猫

横浜市の猫

「あっ、来た!」
横浜市の猫

 ごろにゃーん。
横浜市の猫

 さっきの三毛っぽいキジ白だ。いい仲なんじゃん。
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「こめんね、僕たちこれからデートなんだよ。ちょっとそこどいてくれるかな」
横浜市の猫

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