「你好」
「你好! My name is Mínghǎi Shàng, I have a reservation for tonight. つーか英語OK嗎?」
「OK、等一下我馬上走。ちょっと待つね」
台湾猫散歩の初日、予約してあった淡水の民宿は恐ろしく分かりにくい場所にあって、幅2mほどの細い路地を見つけるのに30分かかった。日が暮れたころになってようやく宿の前にたどり着いたが、扉が施錠されていて中に入れない。隣の建物から出てきた人に話しかけたところ、身振り手振りで扉に書かれた番号に電話しろと教えてくれた。中華電信の音声通話つきSIMが役に立ったのはこの時だった。
言葉も通じない外国人が出ると分かっていて電話するのは勇気の要ることだが、一人でシャイにしていても物事が進まない。エイヤとダイヤルして始まったのが冒頭の会話だった。ちなみに「Mínghǎi Shàng」は俺の氏名の北京語読み。たいぶ前、中国人の女の子に「あなたいい名前ね」と褒められて、覚えていたのが役に立った。
……そんなこんなで、前日からほとんど寝ないで台湾に着き、桃園市内を12kmも歩き回ったので、部屋に案内されるとすぐにベッドにくずおれて気絶してしまった。iPhoneのアラームで目が覚めたのは翌6時。台湾2日目(27日)の朝はどんよりと曇っていて、写真を撮るには苦しい明るさだった。
それでも前日の夕方よりはマシだった。捷運に乗って淡水に着いた時はちょうど日没で、夕日を眺める観光客でごった返していたからだ。淡水には常駐の猫が何匹かいるらしいとの事前情報を得ていたが、こんなに混雑していたのでは猫なんか出てきやしない。そう思って朝の散歩に期待していた。
感慨に耽って見つめていたら、猫もにゃあにゃあ鳴き始めた。ご飯の人と思われちゃったかな。
屋根の上ばかり注目していたら、真正面からも鳴き声が聞こえた。
まだ暗すぎて、動き回られると撮影が厳しい。止まってくれーと話しかけながら、路地を行ったり来たりしているうちに、ぽつりぽつりと雨が降ってきた。渦巻き猫は早速雨宿り。
雨は次第に強くなってくる。雨具など持ってきていないので、濡れるに任せて歩き回っていると、緋毛氈の上で黒いのが寛いでいた。真っ赤すぎて、目がチカチカしない?
「對我們來說、紅色是非常吉祥的顏色。(我々にとって、赤はとても縁起のいい色なんだよ)」
緋毛氈が被さっているのは台湾名物のスクーター。これもまあ台湾らしい風景かもな。
8時近くになって、人とスクーターが増えてきたので、繁華街から出て川沿いの遊歩道に行ってみた。台湾のベニスと謳われる淡水は、いつも大勢の市民や観光客で賑わっているそうだが、雨の朝となると、さすがに人影はまばらだ。昨日の夕方は猫を探すどころではなかったが、今ならゆっくりできるし猫もいる。
日本なら居酒屋に分類されるであろう飲み屋の店先で猫発見。分かるかな。
気温は15℃ほどで、梅雨時期の朝と似た感じ。こんな日の猫は寝坊助だ。
遊歩道ではほかにも2~3匹見かけて、深追いしたり逃げられたりしているうちに時刻は9時。相変わらず雨は降り続いていたが、南の空が明るくなってきた。ここに留まるよりは、あの空の下に行った方がいいかも知れないと思い、その前にコンビニで買った鴨肉サンドで腹ごしらえをしていると、目の前の広場に猫が現れた。
巡回中なのかな。ていうか、こんなところを縄張りにしているのか。
コーヒーで鴨肉サンドを流し込み、カメラを持って接近してみた。スリムなキジトラだな。
カメラを嫌って駅の中に入ってしまった。君の縄張りはずいぶん広いね。
広い駅構内に猫1匹。ここが住み家だとしたら、うちよりよっぽど豪華だな。
淡水散歩はスリムなキジトラで終了。猫のあとをついて駅まで来たので、そのまま捷運に乗って台北に行き、台鉄(台湾国鉄)に乗り換えて、次は暖暖へ向かうことにした。続きは後日。