森林というのはただ美しいだけでなく、不用意に立ち入ると命に関わる危険な場所というイメージを持っている。これは恐らく俺が北海道出身だからだろうが、特に一人で行動している場合、獰猛な動物や有毒植物に遭遇せずとも、単に人里から離れているというだけで遭難することがあるからだ。台湾猫旅ではかなり田舎の路地奥までぐりぐり歩き回るが、森や林の中には怖くて立ち入れない。亜寒帯や温帯の生物相はある程度把握していても、熱帯となると何が出てくるか分かったものではない。実際、花蓮県を旅していた時、瑞穂郷の道端で大量のアフリカマイマイを見たことがあり、このカタツムリは広東住血線虫症を引き起こすので、それ以降の散歩はかなり警戒するようになった。
一方、多摩ニュータウンの森林にそうした危険はなく、たまに出くわすとしても猫ぐらいなので、この季節は美しい紅葉をリラックスして楽しむことができる。ここには大型哺乳類は生息せず、野生で暮らしているのはせいぜいハクビシンやタヌキ程度。たまに猿が出没して市役所から注意喚起がなされるレベルだ。多摩ニュータウンが開発される前の天然の森林とは似て非なるもので、現在の森林は景観に配慮して植物や水場が配置された完全なる人工物であり、野生生物が生きられるような食物連鎖ができていない。なのでどんなにどんぐりが豊作になっても、それを食べる熊やリスがいないので、いつまで経っても六花谷のどんぐりは片付かないわけである。
肉食獣たる猫もどんぐりには見向きもしない。あいつが狙っているのは俺の懐のカリカリと若干のスキンシップだ。
こいつに「ゴン」という仮の名前をつけたのは、この祠にどんぐりや栃の実が供えられていることがあり、それがまるでこいつが集めてきたかのように見えたから。いたずらのお詫びに栗や松茸を集めて届けたという「ごんぎつね」の物語にちなんでいるが、こいつはこの谷の人気者で、会いに来る人が何人もいるので、ほかにも複数の名前を持っているかも知れない。今日もそうした人と行き会った。
縄張り意識の強いゴンは、リラックスしつつも周囲の警戒を怠らない。不意に身を起こして階段の方を向いたので、六花咪でも現れたかと思って振り向くと……、
この谷に住むもう1匹の茶トラが現れたのだった。見かけるのはたぶん2月以来。
ゴンを意識して身を低くしている。モデルになってもらうのはちょっと厳しいですかね。
ゴンは低く唸っている。メスの割に縄張り意識がかなり強く、ほかの猫はすべて敵だと思っているようだ。
30分ほどゴンたちと戯れて、次へ向かおうとして歩き出したが、すぐにまた足止め。谷の急斜面に六花咪が佇んでいた。
今日の散歩は職場からスタートして6.6km離れた堰場バス停まで。ニュータウンの森ではほかにもたくさんの猫を見かけたので、後半は別記事にして明日また紹介する。