今回台湾へ行くにあたって、事前に狂犬病ワクチンの予防接種を受けておきたかったが、時機を逸して受け損なった。ワクチンの種類にもよるが、一般的に推奨される狂犬病ワクチンは渡航の少なくとも3週間前には初回接種を受ける必要があり、早くクリニックへ行かなきゃと思っているうちに時間切れになってしまった。
台湾は狂犬病の清浄国ではないが、普通の旅行者が街の猫を撫でる程度ならそうそう問題は起きない。しかし俺の場合は自ら動物に近づいて濃厚接触を図るわけで、散歩中に犬に咬まれる可能を排除できない。台湾の田舎は野良犬や野犬がうようよしていて、飼い犬も紐で繋がれていないのが大部分なので、迂闊に彼らの縄張りに入り込むと激しく威嚇される。実際、猫旅4日目に訪れた蘭嶼では、数頭の野犬に囲まれて切迫した危険を感じた。これは怖いからとか痛いからという理由よりも、「外国の離島で動物に咬まれたらかなり面倒なことになる」という別の種類の危機感だった。
さて、蘭嶼で野犬に囲まれる24時間前の3月21日午後、俺は台東県達仁郷・安朔集落をあとにし、次の散歩地である南興集落へと進んでいた(前回の記事はこちら)。計画では森永バス停から南興まで歩き通すつもりだったが、安朔渓の徒渉に手間取ったこともあり時間が足りなくなったため、途中の安朔から南興まではバスで移動し、さらに尚武、大溪と立ち寄る予定だったうち、結果的には尚武をパスすることにした。東台灣客運の8132路に乗れば安朔〜南興はたった5分。体力を回復する暇もないままバスを降り、再び小さな集落を歩き出したのは13:20だった。南興村は大武郷南端に位置する人口790人ほどの集落で、住民の大部分を排湾族が占めるほか、少数の閩南人や客家人が暮らしている。
おっさんは貫録があるのですぐに分かる。こういう野猫に近い子は顔つきが精悍だ。
今回の台湾猫旅は予想以上に天気に恵まれていて、日焼けや紫外線など何の対策もしていないので、すでに両腕が赤くなってひりついている。猫たちも大方は日陰で伸びている。
南興では街の簡素な食堂で遅めの昼食を取った。メニューをスマホで撮って見せるという方法で蝦仁炒飯を注文したら、日本人を珍しがっていちご牛乳をサービスしてくれた。猫旅の初日や2日目は緊張してなかなか声が出せなかったが、ここまで来れば気後れする理由はなく、明るく接してくれる住民のお陰もあって、むしろもっとたくさんの人と話したいとさえ思っていた(ポケトーク頼りだけれども)。
右前足が欠損していて痛々しいが、痩せてはいないし毛並みも悪くない。毛色は霜降りのようだね。
小さな集落にもかかわらず猫は多く、すべてをカメラに収めようとするときりがない。30℃を超える日中でもこうなのだから、朝夕はもっとすごいんだろうな。
石碑に片仮名が刻まれているのが珍しくて、由来を調べてみたが分からなかった。もともと台湾の原住民語は文字を持たず、最初に伝わったのはオランダ統治時代のローマ字だったそうだが、部族を問わず共通語として浸透したのは日本語が初めてで、様々な歴史上の出来事がこのように記録され残されるようになった。
猫は気持ち良さそうに寝ている。おっぱいの感じからするとお母さんかも。
シャッター音で起こしちゃった。ちょっと写真を撮っているだけなので、どうぞそのまま。
海も山も近い南興村だが、山中で狩猟採集生活を送っていたという排湾族の由来からして、海で魚介類を獲るという習慣はないらしく、食生活を感じさせるものというと集落に点在する小さな畑ぐらいしかない。人の往来もほとんどなく、どこからか大音量のカラオケが聞こえてくるのみだ。
イエネコはどうだか知らないけど、マヌルネコなんかは飼育下だと退屈すぎて鬱病になっちゃうらしいね。
ポケトークもあることだし、立ち入りの許可を求めて家の人に声をかけたいのは山々だけど、玄関前が猫に占領されているので行くに行けない。無理に行けば連鎖反応でぜんぶ逃げるし、逃げられたあとに家の人が出てきても説明のしようがないんだよなあ。
ここまでで45分が経過し、残りは45分。南興の猫たちはまだ続く。