猫舘と三陸鉄道を訪ねる旅


大船渡市の猫

 日本には「猫」を含む地名がいくつもあって、郵便番号簿を検索してヒットするのは21箇所に留まるが、小字まで含めると150箇所近くにもなるらしい。特徴的なのは西日本よりも東日本に多く分布していることで、中でも突出しているのが福島県の32箇所と岩手県の14箇所。愛知県を東西どちらに含めるかは悩ましいところだが、こちらも26箇所あってかなり多い。それらの地名は単なる当て字というケースもあるようだが、多くの場合、農耕生活において鼠害対策が切実で、猫そのものだけでなく、猫が描かれた絵や猫石のようなものまでお守りにしていたのだろうと想像している。西日本全体で23箇所(しかも稲作が最初に伝来したとされる九州には9箇所)しか存在しないのは解せないが、稲作と猫がそれぞれ異なる時期やルートで日本へ渡ってきたと考えることもできる。
 上記のうち俺が今までに訪れたことがあるのは、福島県福島市下野寺猫内、福島県石川郡石川町猫啼、宮城県黒川郡大衡村大森猫ノ森、千葉県浦安市猫実、愛知県名古屋市千種区猫洞通の5箇所で、そのうち3箇所では実際に猫にも会えてブログで紹介した。一昨昨日から一昨日にかけては異動前最後の休暇を利用して三陸鉄道の未乗区間(盛~宮古)を片付けに行ったので、そのついでに「岩手県一関市大東町曽慶猫舘」という住所の集落に立ち寄ってきた。ものすごく辺鄙な場所で1泊2日の旅程に組み込むのもかなり苦労したが、その甲斐あって猫にも会えたのでまずは最初に紹介しておく。
一関市の猫

一関市の猫

 旅の人間が訪れるなんて10年に一度あるかないかみたいな土地なので、不審に思われないよう手近な3軒の住人に挨拶したところ、そのうち2軒で猫を飼っているとのこと。地名の由来は不明ながら、この近くには猫舘のほかに留舘という字名もあり、古くはそれぞれの土地に武士の館が建っていたらしいと教えてくれた。個人的には、平家の落武者か何かが居着いて稲作を始めたものの鼠害がひどくて猫の手に頼ったか、あるいは故郷から遠く離れた山中で暮らす淋しさを猫で紛らわせていたのではないかと想像している。一関市役所に質問を投げているので、もし返信があればその時の記事で紹介する。ちなみに写真は撮れなかったが、このほかにもクリーム色の猫を見かけて逃げられた。
一関市の猫

 今回は乗り鉄旅ということで、まずは品川から仙台までを常磐線経由の特急「ひたち3号」で移動した。特に途中の富岡~浪江は東日本大震災の原発事故以降、高線量による帰還困難区域にかかっていたため運休が続いており、2020年3月に復旧したと知って一度は乗らなければと思っていた。一ノ関ではカーシェアリングを利用して猫舘まで往復し、返却後は大船渡線で気仙沼へ、気仙沼からはBRTに乗り換えて盛へと進んでその夜は駅近くの宿で一夜を明かした。
 翌26日は朝から蒸し暑く、三陸鉄道の発車まで街なかを散歩しているうちに、真夏と同じレベルの汗をかくことになった。猫も何匹かは見かけたが沿岸の街の割には少ない印象だった。
大船渡市の猫

大船渡市の猫

 お腹の膨らみがおめでたっぽい麦わらさん。そろそろ寒くなるのに、これから出産するケースもあるんだな。
大船渡市の猫

 もう1匹も麦わらさんだけど、こちらは明らかに飼い猫。
大船渡市の猫

大船渡市の猫

 尻尾が肯定的! いい子だね、おいでー。
大船渡市の猫

 ためらっておるな。猫の表情って分かりやすい。
大船渡市の猫

 離れたところに座って長考に入った。大きなレンズがいけなかったか……。
大船渡市の猫

 三陸鉄道・宮古行きの普通列車は10:03に盛を発車。そのまま終点まで乗っていれば自動的に三陸鉄道完乗と相成るわけだが、せっかく三陸くんだりまで来たので、途中の吉里吉里きりきりで1時間20分ほど散歩してみた。吉里吉里は上閉伊郡大槌町に属する町丁で、井上ひさしの「吉里吉里人」で有名になった土地だそうだが俺はその作品を読んだことがない。わざわざ途中下車したのは個人的に震災後の大槌町を見たかったのと地名オタクとしての興味からで、猫の方もスタートから3分も経たずして1匹目を発見した。
大槌町の猫

 吉里吉里猫、無常に逃走。
大槌町の猫

 2匹目は物置小屋でお昼寝中。
大槌町の猫

 遥か彼方に真新しい防潮堤が見えている。津波は小屋の窓が隠れるぐらいまで達したようで、付近はほとんど更地のままになっていた。
大槌町の猫

大槌町の猫

 三陸鉄道は2020年9月末の沖縄東北猫旅の時に北端の久慈から宮古まで乗っており(こちらの記事)、今回は逆方向に南端の盛から宮古へ向けて乗っていることになる。吉里吉里からは12:41発の宮古行き2013Dで残りの区間を消化した。
 宮古市内では数匹の猫に遭遇。写真に収まった1匹目は土産物屋のキジ白。
宮古市の猫

宮古市の猫

 指挨拶はできたけど、通りかかった大型車に驚いて逃げてしまった。
宮古市の猫

 フェンスの隙間からクリーム猫がこちらを見つめているのが分かるかな。
宮古市の猫

 鳴いているね。俺に何かご用?
宮古市の猫

「君はまた僕たちの仲間を探しに来たのかー」
宮古市の猫

 いやいや、猫散歩は8月で卒業したの。今回はあくまで乗り鉄旅だから。
宮古市の猫

「やってること大して変わらないじゃん」
宮古市の猫

宮古市の猫

 人懐っこくて可愛らしい子。動画はこちら
宮古市の猫

 宮古で最後に見かけたのは日なたと日陰の境目に佇む茶トラ。この日の最高気温23.5℃(宮古アメダス)はこの時期の東北にしては高い方だと思うし、夜の冷え込みを警戒して長袖を着てきたのも完全に失敗だった。
宮古市の猫

宮古市の猫

 駆け足であちこち回った短い旅行はこれでおしまい。盛岡までの帰路は運休中の山田線に代わって岩手県北バスを利用し、仙台で牛タン弁当を買って22時ごろ帰宅した。もともと25~27日の連休は御蔵島5回目のチャレンジに赴くつもりだったが、そちらは冬になってからまた考える。
宮古市の猫

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