台湾猫旅は好天続きのまま4日目(3月22日)を迎え、この日は金峰郷賓茂村の民宿で爽やかに目覚めた。前回の記事では金崙に泊まると書いたのに賓茂とは何ぞやと思われるかも知れないが、実は金崙には飛び地が存在する。
金崙駅を背にして西へ500m進み、金崙渓の支流に架かる賓茂一號橋を渡ると太麻里郷から金峰郷飛び地に入る。賓茂村と呼ばれるその飛び地をさらに500m進むと、賓茂二號橋を渡って再び太麻里郷金崙村となる。つまり今回は二つの橋に挟まれた金峰郷の小さな飛び地に宿泊したというわけだ。金崙村も賓茂村も住民の多くを排湾族が占めているが、両者はルーツが異なり、賓茂村の排湾族はもともと屏東県の射鹿という山中で暮らしていた四部族が合併し、移住を重ねてここへたどり着いたのだそうだ。賓茂村には排湾族だけでなく少数の魯凱族が暮らしているほか、賓茂二號橋の先の金崙村十四鄰というエリアでは阿美族が暮らしている。できれば今回の散歩ではそれらの集落をつぶさに見て回りたかったが、猫が多すぎてなかなか先へ進めず時間切れになった。
ちなみに金崙という地名、俺は日本語でコンロンと読んでいるが、この地名は当地の海岸に生えている雞母珠という蔓性の植物が由来で、学名をAbrus precatorius、標準和名をトウアズキ、排湾語名をanaranという。これに因んで排湾族はこの地を虷仔崙(kanalung)と呼び、日本統治時代に似た音の漢字を当てた結果が金崙、つまり正しい日本語読みはコンロンでもキンロンでもなく「かなろん」なのである。雞母珠の種子はビーズとして台湾原住民の手工芸品に利用されているそうだ。
観光案内はこのくらいにして、猫旅4日目の猫散歩第一弾は6:30にスタート。この日は飛行機に乗る予定があるので、それまで時間厳守となり賓茂・金崙の散歩は8時半までの2時間限り。昨夜は駅と宿とコインランドリーの行き来だけで20匹以上の猫に遭遇しており、その期待に違わず最初の猫グループはわずか1分で発見した。
そこまで登る気はないけど、登ったとしてもダメそうな顔つきね。
原住民集落といえばたいていどこも急傾斜地。初っ端から息を切らして坂道を上っていると、行く手に猫が見えてきた。
この日の日の出時刻は5:59で、やや雲は多いものの少しずつ日が差してきた。日中は暑くなるだろうし、日なたぼっこするなら今だと思うんだけどどうかな。
スリムだが強そう。こういう顔つきの猫って日本ではあまり見ないように思う。
逃げられ続けてやや凹んできたところへさらに追い討ちがかかる。どこの国も田舎の猫は警戒心が強いな……。
黒が逃げた向こうに見える丘の麓は金崙渓の対岸で、川は海に向かって右から左へ一直線に流れ込んでいる。台湾東部はどこも険しい地形で、河川の標高差が大きく距離が短いため、水量はごく少ないかほとんど涸れている一方、雨が続くとたやすく地盤が崩壊して一気に土石流が押し寄せる。緩やかな河川のように自由蛇行が起こらず、扇状地は小さく土壌が肥沃にならないので、農業に向かないだけでなく漁業も発達していないようだ。ちなみにこの辺りには温泉がたくさんあるので訪れる観光客は多く、ほかの原住民集落に比べると豊かな印象を受ける。
実は俺も当初は金崙村の温泉宿で湯船に浸かりたいと思っていたが、値段が高すぎて折り合わなかった。今回の台湾猫旅は燃油の高騰で飛行機代が倍かかっている上、円安のため1元=4.3円という俺史上最悪のレートで、加えて台湾国内のインフレも進んでいるのでかなり費用が嵩んでいる。今までのように、気に入った宿ならどこでもというわけには行かない。
花咲き乱れる擁壁の上でお休み中の猫発見。紛れちゃって分かりにくいかな。
集落を一回りして宿の近くまで戻ってきた。出発した時はいなかったサビが車の上でちんまり中。
昨日の夕方から夜にかけては宿の周囲にたくさんの猫が集まっていたのに、朝になってみたら誰もいない。何年やっても君たちの習性はよく分からないね。
昨夜お世話になったのは奇瓦拉民宿という宿で、Agodaで1ヶ月前に予約して1,260元(約5,400円)だった。奇瓦拉はkivalaという排湾語の当て字で、訪問や探訪を意味する言葉だそうだ。ちなみに俺が泊まりたかった金崙村の温泉宿はその倍の値段。今回の猫旅を計画していて頭に来たのはAgodaの価格設定のえげつなさで、2018年秋に約5,000円で泊まった瑞穂温泉(花蓮県)が11,500円に値上がりしていたのはまあ仕方ないとしても、32,000円という根拠不明な定価に対して64%オフと表示されていたことには目を疑った。瑞穂温泉は山間の鄙びた一軒宿という点でいい宿だと思うが、いくら何でも32,000円はない。それだけ出したら台北の最高級ホテルに泊まれるわ(などとプンスカしつつ次回へ続く)。