猫を訪ねて日台ハシゴ旅8(嘉義)


嘉義市の猫

 四国・台湾猫旅3日目となる3月21日の朝、俺は嘉義駅から900mほど離れた嘉義樂客商旅の一室で目覚めた(前回の記事はこちら)。
 今までの台湾猫旅では民宿に泊まることが多かったが、最近は円安で必ずしもそれらが安いとは限らなくなっており、今回は結果的にすべてビジネスホテルを利用することになった。料金は4,700円〜7,500円の範囲で財布に優しく、オンラインで予約を完結できたのでとても楽だった。これがオンライン予約に対応していない民宿となると、FacebookやLINEで日程を打診して、前金を送金するのは難しいので代替案を提示して……、などと非常に煩わしい作業が発生する。民宿はアットホームな雰囲気で、時には猫がいたりもするので捨て難い魅力はあるんだけれども、これらを中国語でやるのはなかなか敷居が高い。
 宿泊地に嘉義を選んだのは9:00発の阿里山森林鉄路で十字路へ向かうため。この辺りの旅程作成はかなり苦心していて、立案段階では日月潭から阿里山行きのバス(員林客運6739路)に乗り、阿里山側から十字路へ向かうことにしていた。十字路というのは4年半前に線路端で遊んだ皮蛋ピータンが住む集落で、たった一度会っただけの猫が夢にまで出てくるものだから、貴重な旅程を丸一日割いて赴くことにした次第。「猫を訪ねて二千公里」というわけである。
 6時半に宿を出てみると片側2車線の林森西路は閑散としていた。天気は上々で日中は26℃程度の最高気温が予想されていたが、そのころ俺は標高1,534m地点で散歩しているはずなので余裕だ。十字路で散歩したあと夕方にはバスで嘉義駅に戻ってくるので、まずは駅のコインロッカーにリュックを預けることにする。
 歩き出してすぐに猫の洗礼。見える範囲で4匹の猫が朝ご飯を食べていた。
嘉義市の猫

嘉義市の猫

 細面の三毛は目を真ん丸にしてこちらを見ている。私は単なる猫好きなのでどうぞそのまま。
嘉義市の猫

 奥の方にいた黒と茶トラはとっくに逃げてしまって、取り残された黒白も風前の灯。
嘉義市の猫

 嘉義を訪れるのは初めてではなく、2019年11月の猫旅でも午後の2時間ほどを散歩に充てたことがあるが、この時は気温が30℃以上もあってたくさんは見つけられなかった。その時の印象からすると、駅の栄えている側よりも栄えていない側に猫が多そうで、街歩き自体も面白そうなので、嘉義駅でリュックを預けたあとは長い跨線橋を渡って駅裏へ向かうことにする。駅裏は中国語で後站と呼ばれ、対する前站よりも格段に寂れていることが多いが、嘉義の後站はかつて台湾糖業鉄路の一大拠点だった名残が今もわずかに残っている。ここから朴子線と北港線という2路線が出ており、特に北港線の終点である北港には台湾媽祖廟の総本山があることから旅客営業も好調で、全盛期は一日32往復の列車が設定され6千人もの利用者があったというから驚きだ。
 しかし全線廃止から42年が経った今、鉄道の街だったころの栄華を感じさせるものはなく、路地の怪しいカーブにその名残を見て取れるぐらいのもの。早朝だからか人影よりも猫影の方が目につく。
嘉義市の猫

嘉義市の猫

 麦わらと思しき猫のあとを追って広い通りに出ると、キジトラが待ち構えていたでござる。
嘉義市の猫

嘉義市の猫

 警戒して身を低くしたキジトラ。お友達を紹介してくれると嬉しいんだけどな。
嘉義市の猫

「それなら君の後ろにたくさんいるよ」
嘉義市の猫

 あらま、ホントだ。ここはキジトラの巣窟だね。
嘉義市の猫

嘉義市の猫

 歓迎している目つきには見えないけど、逃げないんだから好感度は低くないはず。
嘉義市の猫

「你帶食物了嗎?(ご飯を持ってきてくれたの?)」
嘉義市の猫

 朝食前だからか、警戒はするもののみんな逃げない。あんまり期待させちゃ悪いから、あとでまた覗いてみようかな。
嘉義市の猫

 時刻は7時半でどこの猫もぼちぼちご飯を待っている。
嘉義市の猫

 えー、行っちゃうのー?
嘉義市の猫

嘉義市の猫

 逃げたいのか留まりたいのかはっきりしないキジ白。ご飯前の猫ってだいたいこんな挙動だよな。
嘉義市の猫

「僕はここで待っているよ。ヘタに動いたら食いっぱぐれるからね」
嘉義市の猫

嘉義市の猫

 30分ほどでキジトラの巣窟に戻ってみると、とっくに朝食が終わっていて猫たちの姿はなく、食後と思しき黒が高みで日に当たっていた。
嘉義市の猫

嘉義市の猫

 呼んでもきょとんとするばかりで反応がない。
嘉義市の猫

 古びた看板には北興市場と書かれている。ここはかつて糖鉄の操車場に面していた場所で、昔は活気ある市場だったようだが、糖鉄なき今はすっかり寂れて20店舗を残すほどとなり、犬と猫を足した数が人よりも多いくらいになっている。市場はこの先の縦貫線を跨ぐ陸橋の下にまで展開しているが、嘉義駅の高架化に伴って平面道路に変わるため取り壊される予定とのこと。俺の猫旅はこういう裏ぶれた場所を選ぶことが多いせいか、経済発展著しいはずの台湾人や台湾猫が必ずしも豊かには見えない場面によく遭遇する。これは日本にも同じことが言え、どちらの国の生き物も時代に翻弄されているかのようだ。
嘉義市の猫

 後站で最初に覗いた路地に戻ったころにはすっかり日が高くなっていて、突然現れたニンゲンに驚いた猫が上手く隠れたつもりで固まっていた。
嘉義市の猫

 ふっ、俺様にその技は通用せん!
嘉義市の猫

「哎呀!(ひえー)」
嘉義市の猫

 一日30kmぐらい歩く猫旅は体力的にきつく感じることも多いが、この日は終日に渡ってリュックから開放され、嘉義のあとは十字路の小さな村落を歩くだけなのでいちばん楽な日だ。リュックといっても最低限の荷物で来ているので10kgもない軽いものだが、それでもカメラバッグと一緒に肩に下げればそれなりに堪えるし偏頭痛の原因にもなる。最終的に7.1kmになった嘉義散歩は気温が低いこともあって快適至極だった。
 ここで時刻は8時になり、林鉄の発車までちょうど1時間。今回の猫旅は台湾国内で使うほぼすべてのチケットを電子化しているが、林鉄だけはeチケットに対応していないので、少し早めに駅に戻って発券してもらう必要がある(後日訂正。林鉄もeチケット対応済みだがその時は知らなかった)。実質30~40分ほどの残り時間であとどれだけの猫に会えるかな。
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