昨日に続いて今日も四国・台湾猫旅を。基本的には天気が悪いなどで散歩できない日に載せるようにしているが、正直にそうしていたらいつ終わるか分からないので、昨日と今日はできる散歩をわざわざ休んでこちらを優先することにした。
場面は引き続き猫旅3日目、3月21日朝の嘉義市内から。猫旅の記事はどうしても紀行文のようになって書くにも時間がかかるが、そうして色々な調べ物をしていると台湾の興味深い歴史を知ることになり、その魅力にやられてまたすぐに行きたくなってしまうのが困りものだ。例えば道端に猫が潜んでいるこの路地には「後驛街」という街路名がつけられているが、中華圏においてRailway Stationを表す語は「車站」であり、驛(日本語の新字体で駅、中国語の簡体字で驿)という語を用いるのは日本だけなのである。昨日の記事でも触れたように中国語では駅裏のことを後站と呼ぶので、後驛街という街路名は日本統治時代の名残であることが分かる。実際この路地は現役時代の台湾糖業鉄路の嘉義駅にほど近く、1970年ごろまでは北港朝天宮の参拝客で大変な賑わいだった。現在それらが跡形もなくなっているのは製糖業の衰退とモータリゼーションが原因で、北港朝天宮の参拝客に限って言えば今も賑わいは変わっていない(北港は次回の記事で紹介するのでお楽しみに)。
……で、その後驛街で見かけたのは野良然としたキジトラ。警戒して腰が引けているところ、にこやかに接して何とか思い留まってもらった。
血脈というのは遠い過去と繋がっているものだから、こいつの祖先もこの地で日本語を耳にしていたことだろう。君たち一族にとって俺は何年ぶりの日本人かな。
迷惑そうな猫に向かって「いい子だねー」と接する俺を通りすがりの婆さんがにこにこして眺めている。三者三様の光景はきっと世界共通。
阿里山森林鉄路の售票處(切符売り場)は嘉義駅の外側にあり、遠目には外壁に穿たれた夜間金庫のように見えるので、初めて訪れた人は探し当てるのに苦労するかも知れない。昔はダフ屋もいたそうだが今はオンライン予約がほとんどで、一日一往復のプラチナチケットを飛び込みで買おうとする人はいない。そもそも十字路の先は2009年から不通になっているので、昔のように林鉄乗車と阿里山宿泊をセットで回る人は少ないのだろう。十字路は小さな山間の集落に過ぎず、観光スポットには乏しいし宿泊施設も俺の知る限り民宿が二つだけだ。有名観光地の阿里山駅(標高2,216m)や阿里山國家森林遊樂區からは15kmほど離れていて、観光客で賑わうのは嘉義から登ってきた林鉄の列車が折り返すまでの2時間弱に限られる。
そんな場所でも林鉄だと片道3時間。現地の滞在時間を含めれば最低8時間はかかるので、この日の散歩は十字路でおしまいということになる。短い旅行の貴重な一日を十字路に捧げたのはなぜかというと、2019年11月の猫旅で訪れた時、とても懐いてくれた皮蛋に再会したかったから。4年半も前にたった一度会っただけだから可能性が低いことは覚悟していたが、とても印象に残る猫で夢にまで出てくるので、気持ちに踏ん切りをつけるため旅程に組み込んだ。
距離にして55km、標高差1,500mを3時間かけて正午ちょうどに十字路到着。駅の周囲を散策する観光客から離れて線路を歩いていると、見覚えのある白い犬が背後を横切った。
私は4年半前にもここに来た日本人で、今日みたいに君の仲間に遊んでもらったのですよ。親子か親戚か知らないけど、会えて本当に嬉しいなー。
嬉しくて懐かしくてたくさんシャッターを切ったが、あいにくこの子はカメラが苦手らしく、徐々にしょっぱい顔になって最後はどこかへ行ってしまった。飼い主のおばさんの姿も見かけたが皮蛋の消息は聞きそびれた。瑞芳を離れる時と同じように、次はないのだから聞いても意味がないと思ったからだが、この判断は帰国してから深く後悔することになった。
最後にこの子を撮った動画と、皮蛋に会った2019年の記事にリンクしておく。
嘉義へ戻るのは14:58発の7322路というバスで所要時間は2時間10分。つまり今回は十字路の滞在時間が3時間もあるのだが、皮蛋Ⅱ世(?)と遊べたのはごく短時間だったし、白い犬は年を取って呆けてきているのか、暖簾に腕押しの感があって遊び相手としては心許ない。駅構内に鳴心咖啡という阿里山コーヒーを出す店があり、おススメを注文したら20分以上かけて抽出してくれたが、せっかちな日本人は3分で飲んでしまって「モウ飲ンダノ、早イヨー」と呆れられる始末だ。ただしこのコーヒー、今まで俺が飲んできたものとは異次元の美味しさで、豆を買って帰ろうと思って値段を聞いたら60gで1,200元(5,700円)! 財布に1,300元しか入っていない日本人は敢えなく撃沈したのだった。だって現金なくてもたいていのことは悠遊卡で済んじゃうんだもん……。
美味しい阿里山コーヒーを堪能したあとは休む間もなく猫探しへ。十字路初の2匹目を発見。
どこからか呼ぶ声に反応して格子の向こうへ行ってしまった。まあ1匹だけってことはないと思っていたよ。
そろそろバスが来る時間になり、最後に一回りと思って山の斜面を歩いていると、前方に水を飲む小型哺乳類が見えてきた。
遠くて毛色がはっきりしない。ここ台湾だしセンザンコウか何かかしら。
猫だった。野猫のようにも見える出で立ちだけど、俺に気づいて逃げるわけでもでもなく、この上には民家もあるのでご飯はもらえているのかも知れない。
嘉義駅では約20分の待ち合わせで七堵行きの142次自強号に乗り換え、宿泊地の斗六に着いたのは17:58。この夜は四国から溜まっていた洗濯物をやっつけなければならなかったが、溜まった疲れと一日の余韻でなかなか動く気になれず、駅近くのコインランドリーへ出かけたのは20時近くになってからだった。ベッドでごろごろしている時に眩暈のようなものを感じたが、それが花蓮県秀林郷を震源とする地震の揺れで、この2週間後に発生するM7.2の花蓮大地震に繋がるものとは思ってもみなかった。
次回の四国・台湾猫旅は雲林県北港鎮から。