今日は四国・台湾猫旅の金崙編をお届けするわけだが、本題に入る前にマコちゃんの状況報告を。今のところ先日の確定診断から医療的な進捗はないが、嬉しいことに数日前から水を飲み始め、今日は約2週間ぶりに自力でお鉢からご飯を食べるようになった。まだ診療が始まっていないので病状が回復したわけではなく、恐らく一時的に鼻の通りが良くなって匂いが分かるようになったものと思うが、食べることは生きるための基本だからこれは本当に嬉しい。
抗癌剤治療は地元のかかりつけ医では対応できないとのことで、農工大の小金井キャンパスから府中キャンパスの動物医療センターへ転科する方向で進めてもらっている。たぶん2〜3日中には予約が取れるので、そこから治療が始まることになるが、どの程度のレベルで戦っていくかは状況次第だと思っている(つまり撤退もあり得る)。先日の記事に書いたように、再発の可能性が高い疾患を治療するのは単なる問題の先送りではないかという疑問もあるが、これは獣医に問うようなことではなく、自分の中で解決しなければならないことだったようだ。
ここからは俺の私見だが、生き物はいずれ死ぬし、死に方を選ぶこともできないのだから、マコちゃんの本来の寿命は癌に罹った15歳なのであろう。ところが幸か不幸かマコちゃんが生まれてきたのは猫という生き物がほぼ愛玩動物と化した現代日本であり、しかも俺たち夫婦に気に入られてしまった。その結果、すべての生き物が等しく持っているはずの生殖の自由を奪われ、癌に罹るほど長生きさせられた揚げ句、死んで土に還る自由まで奪われようとしている。俺は自分のやっていることが良いことだとはまったく思っておらず、なまじっか溺愛してしまったために、このまま悪化して苦しむ姿を見るに忍びないから治療を受けさせるのである。ここまで来た以上、双方が楽になれる方法はそれ以外にない。
金崙の猫は前回最後に登場した人懐っこい茶トラから。動画も公開済みだけど一応もう一度リンクしておく(こちら)。
隣の家にもう1匹。この一角が猫の巣窟なのは去年も来て分かっているけど、茶トラ以外は初めて見るメンバー。
今回の猫旅の台湾部分は基本的に知り合いの猫たちと最後の別れをするための旅で、最初の3日間はかつて歩いた北部や中部の街を巡り、帰国日となったこの日は東部を散歩したあと一気に北上して台北を目指すことにしている。もちろん東部にも知った街はいくつもあるが、残された時間は限られており、金崙のあとは花蓮県の玉里が最後になる。
金崙と一口に言っても、金崙村の属する太麻里郷は先ほど茶トラが転がっていた賓茂一號橋の先で一旦終わり、さらに少し行くと金峰郷賓茂村という小さな飛び地に至る。川が郷境(?)になっていないところがミソで、いったいどこが境目なのだろうと民家に掲げられた住居表示を眺めながら歩いていると、大きな邸宅の庭で三毛がぽつねんと座っていた。
いつの間にか金峰郷に入っていたのだった。この路地は去年泊まった宿に近く、同じ家ではサビを見かけたがこの日は不在。
排湾語使いのシルバー三毛ちゃんはティッピングが入っているようだね。
近寄ってきそうな顔つきじゃないけど、クリーム白かなあ。排湾族の村には様々な毛色の猫がいるね。
小さな飛び地を通りすぎて二つ目の橋(賓茂二號橋)を渡ると再び太麻里郷金崙村となり、今度は「溫泉」という名の小さな集落が現れる。金崙村が日本の大字に相当するなら溫泉は小字で、その名の通り付近は温泉宿が並ぶ山間のリゾート地のような佇まいだ。台湾の行政区分としては「郷」の下に「村」、「村」の下には「鄰」が来るはずで、実際この辺りの正式な住所は台東縣太麻里郷金崙村14鄰だと思うが、14鄰が溫泉という地名とどう紐付くのかはよく分からない(住居表示の一例)。これらの集落には例えば溫泉ならPadrangidrangi、金崙にはKanalungというれっきとした排湾語名があり、第二次世界大戦後、国民政府が一方的に制定した数字表記は地元に馴染まないのかも知れない。排湾語は文字を持たない言語で、ローマ字表記はオランダ統治時代にもたらされたものだが、異なる部族の言語に互換性はなく、共通語として機能したのは日本統治時代の日本語が初めてだった。なので排湾語名はもちろん、漢字の地名も大切にしているのかも知れない。肝腎の温泉は屬弱鹼性碳酸氫鈉泉、日本の分類だと炭酸水素塩泉だそうで泉温は70〜90℃と高く、日本人は誰もが熱いお湯を好むと信じている現地民はこの泉質にかなり自信を持っているらしい。台湾国内ではよく知られた保養地で、時刻は9時前とまだ早いにもかかわず、土曜日だからかすでに交通量が増えてきている。残り時間も1時間半ほどとなり、そろそろ駅の方へ引き返すつもりで歩いていると、脇道からこちらを眺める2匹の猫に気づいた。
こちらを訝しむような顔つき。私は単なる猫好きの日本人ですから、どうぞご安心を。
サビは警戒して距離を取っている。まあ俺は日本でもサビには逃げられがちだからな……。
こちらを怪しみながらも何気にフレームインしてくるサビと一緒にもう1枚。坂道の多い金崙散歩をもう少し頑張って、次回はいよいよ最後の散歩地・玉里へと向かう。