「……にしても、さっきからにこにこしてこちらを見ているアイツは何だろう。鬱陶しいヤツだな」
10時ごろ夜勤を終えて、駅に向かってとぼとぼ歩いていると、住宅街の小さな遊歩道で猫を見かけた。隣接する民家がシマの中心らしいが、そもそもこの街は猫が非常に少なくて、偶然行き会うことは滅多にない。前回見かけたのは10ヶ月前に遡る。
その後、唐木田から多摩センター~立川を経由して電車を乗り継ぎ、さらに一駅乗り越して、五日市線の熊川から散歩をスタートしたのは正午10分前。今日も青空が広がって猫日和のように思えたが、会社からだと2時間近くかかる場所のため、大方の猫はお昼寝タイムに入ってしまったらしい。歩けど歩けど猫の姿はなく、ようやく1匹目を発見したのは、散歩開始から30分後のことだった。
市境を越えてさらに行くと、道路を横断中の猫発見。今度はバレないように追跡してみよう。
慎重に追跡しているつもりだったけど、とっくにバレていたらしい。フェンスの向こうで振り向いて、勝ち誇ったような顔をしている。
一度下りた河岸断崖を再び登ってさっきの場所に戻ると、今度は黒いのが道路を横断していた。ここは猫の往来の多い場所だな。
「お腹が空いているなら、向こうの物置の裏に美味しいものが置いてあるよ。僕もういらないから全部食べていいよ」
自分の家に入る前に一旦停止。オスの縄張りは1km四方と言われているからかなり広い。巡回するのも一苦労だな。
「一日で全部回るわけじゃないんだけどね、年のせいか最近ちょっとしんどくて……」
まったりとした散歩を終えて自宅に戻ってくると、キジ白3号がいつもの塀の上に乗っかっていた。こいつはカメラを向けると盛んに目をしばたいて、敵意のないことをアピールする。これも一種の処世術だ。
気配を殺して待っていたら、ちょっとだけ薄目を開いてこちらを確認。そしてすぐにまた閉じてしまった。カメラのレンズは苦手のようだ。