「〽Amあなたと出会ったDm新座の駅E7でー」
大人の恋をしっとりと歌い上げるこの曲は「新座の夜」というタイトルで、某巨大東京都庁の偉い人が酔っ払って作ったものだ。俺自身もかつて吉祥寺で音楽活動をしていた時、合奏練習のあとしこたま飲んで、へべれけになった女の子をタクシーに押し込み、新座の自宅へ送って行く途中、走行中にもかかわらずいきなり右側のドアを開けて「おえー」とやられて慌てたこともあった。朦朧とする意識の中にあっても、車内を汚すまいとする彼女の健気さに俺は惹かれたものだった。
……このように、俺や俺の知人には新座に特別な思いを抱いている人が多く、この街を猫散歩するのは遅きに失した感がある。今日は東所沢の床屋に髪を切りに行ったので、満を持して新座から1駅歩くことにした。
最初の猫を見つけたのは、新座駅を出発してから30分後。駅から離れると農地になってしまうので、住宅街で少し粘ってみたのだった。
ご飯を奪いに来たんじゃないから、そんな露骨にイヤそうな顔しないでよ。
農地を歩いても仕方がないので、駅から離れつつも、ぽつぽつと点在する住宅街を選びながら歩いていると、とある民家の敷地で茶トラ白を発見。
住宅街の一区画を一緒に巡回して、ここでお別れ。人懐っこすぎると、むしろ写真が撮れなかったりして、痛し痒しだよなあ。
猫の気配はぷんぷんするものの、その割に姿が見えないと思ったら、ああいうところにいるのだった。そろそろ暖かくなってきたから、屋根の上はおしまいだと思ってた。
「おーい」と呼んだら脱兎のごとく逃亡。どうせフェンスが張られて入れないんだから、あんまり遠くに行かないでくれよー。
「美味しいものを持っているか否か、それが私の唯一の判断基準だ」
もともと私鉄だった南武線や青梅線と違って、武蔵野線の1駅はやたら長い。昨日は横浜、今日は埼玉と、やや疲れ気味の体を引きずって、ようやく東所沢の高台にたどり着くと、雑然とした農機具置き場で2匹の猫が寛いでいた。
さくっと足音を立てた途端こうなった。キジ白は何とか留まってくれたけど、灰色はもはや行方不明。
……と思ったら、はるか彼方からこちらを眺めていた。猫の反応って本当に極端。あながち俺のアプローチが雑なことだけが理由ではないと思うんだけどな。