台湾の人々は親切で、交通機関も時刻通りに走ってくれるので、前回も今回もトラブルなく旅ができたが、天気だけはどうにもならない。台湾猫散歩の最終日は十分の宿で目覚めた時から雨が降っていて、帰国の途につくまで止みそうになかった(前回の記事はこちら)。
十分の次は平溪線沿いに終点の菁桐まで4駅歩くつもりでいたが、雨具もないし、大部分が山道ということもあって、大人しく列車で移動することにした。ただし平溪線の列車は1時間に1本しかないので、すべての駅に寄ることはできない。菁桐で10:45発のバスに間に合う必要があり、それから逆算した結果、途中下車できるのは平溪だけとなった。
十分老街の犬や猫たちと別れたあと、8:47発の菁桐行きに乗り、平溪には10分ほどで到着した。平日の9時なら多少は人が出ているかと思ったが、平溪線沿線は基本的に観光以外の産業はないらしく、人の往来はとても少ない。雨を避けながら軒下を縫うように歩き始めて間もなく、高みからこちらを眺める猫を発見した。
下りてこないかと思って、しばらく眺めていたら、後方からもう1匹現れた。黒い方はまだ若いようだ。
湿度が高いせいか、逆光だと霞んだように写ってしまう。服も湿ってしまって落ち着かないが、猫たちに雨を気にする様子はない。冬とはいえ、そもそもここは亜熱帯。濡れて困るようなことはあまりないのかも知れない。
坂道に沿って赤い提灯がぶら下がる平溪老街。シャッターの下りている店ばかりだが、客がいないのだから開けたって仕方がない。普段はたくさんの観光客に撫でられているであろうサビ猫も、退屈そうに佇んでいる。
犬も手持ち無沙汰に走り回っている。なお、十分から連れてきたわけではないので念のため。
狭い老街を一回りして戻ると、先ほど屋根の上にいた黒が下りてきていた。
近寄ったら大きな声でにゃあと一鳴き。指の匂いで挨拶したり、背中を撫で回したり、色々やらせてもらったが、撮った写真は暗くてほとんどブレた。
1時間ほど平溪に滞在したあと、後続の列車に乗り、終着駅の菁桐に着いたのは10:08。列車から降りてまず目に飛び込んで来たのは、2基の大きなホッパーだった。ホッパーというのは鉱石を積み込むための施設で、トンネル部分に専用の貨車を送り込むと、上に貯蔵してある鉱石が落ちてくる仕組みになっている。かつて菁桐には炭鉱があって、採掘された石炭はここで貨車に載せられ、国内各地に出荷されていた。俺の両親の出身地が夕張ということもあって、この手の施設は子供のころから見慣れているが、台湾で見ることになるとは思わなかった。なお、肝腎の猫もちゃっかり写っていたりする。
菁桐は終着駅だから、カーブの先で線路は途切れる。行っても何もないと思って油断していたら、猫が現れた。ここは黒いのが多いな。
モノクロな菁桐の猫たち。十分や平溪より格段に小さな集落なのに、ずいぶん多いんだなあ。
そろそろバスの時間だから行かなきゃ。君たちにまた会う機会はあるだろうか。
日本の路線バスは、遅延はあっても早発することはあまりないが、外国の山の中じゃどうだか分からない。先ほどの線路端にはほかにも何匹かの猫がいて、後ろ髪を引かれる思いだったが、それを断ち切って早めにバス停に移動した。菁桐駅から近いのは菁桐坑というバス停で、ここから台北客運の795系統に乗って山を越え、一気に台北市内の木柵を目指す。右側通行のバス停は何となく落ち着かずにそわそわして待っていると、LED表示で795と大書されたバスが時刻通りに現れたので、すかさず手を上げて合図した(しないと止まらない)。念のため運転士に「木柵車站」と書いたメモを見せたら大きく頷いたので、間違いないようだ。
山道を右に左に曲がりくねって40分、下界というべき木柵駅に着いたのは11:25。木柵は台北捷運文山線の駅で、用があるのはここではなく、一つ隣の動物園駅だ。猫空ロープウェイの動物園駅に迷い込んだ猫が駅長猫になって常駐しているというので、一目会いに来たのだった。
4階建てのロープウェイ駅を上から順に探し回って、いちばん下まで降りてきてようやく発見。
少し角度を変えてもう1枚。あいにくお昼寝中だったが、会えて良かった。ちなみにこの子の名前は咪咪(ミミ)。猫空ロープウェイは駅に猫がいるから猫空になったわけではなく、動物園と猫空地区を結ぶことでこの名がついている。
動物園駅の咪咪に会えて、予定していたことはすべてやり終えた。まだ正午を回ったばかりで、飛行機の出発まで6時間もあるが、十分の犬に服を泥だらけにされ、その上だいぶ濡れてしまって、知らない街を練り歩く元気は残っていなかった。飛行機の時間までどうするか考えあぐねた結果、前回の台湾旅行の最後に見かけた黒猫に会いに行ってみることにして、動物園駅から再び捷運に乗った。
目的地の南港には1時間ほどで着いたが、残念ながら黒は不在だった。ご飯の皿が置かれていたので、どこかで雨を避けているものと思われたが、俺は再び行き先を失って、そのまま歩き続けることになった。都会の台北市内に猫影は限りなく薄く、あとは帰国するだけかと思いながら、とある団地に迷い込むと、路地を横切る猫に行き会った。
しばらく眺めていると、黒いのがもう1匹登場。もうどっちがどっちか分からない。
今回の台湾旅行も最後は黒だった。
すべての散歩を終えたあと、最寄り駅の昆陽から捷運に乗り、台北から桃園空港まではリムジンバスを利用した。財布の中身がだいぶ淋しいことになっていて、搭乗前に日本円に入れ替えたら、18元(約60円)しか残っていなかった。もちろん買い物して受け取った統一發票(レシート)は全部取ってあって、3月25日の当選発表を楽しみに待っているところだ。
次があるかどうかは分からないが、もし機会があれば、今度は台南や高雄や、鉄道の通っていないもっと南にも足を延ばしてみたいと思う。田舎を回るとなると、車を使った移動を検討しなければならないが、台湾では日本の運転免許証が通用するので(中国語翻訳文が必要)、その気になればレンタカーも借りられる。ただし不慣れな右側通行で、右左折した時などに反対車線に入ってしまう自信があるので、なかなか踏み切ることができないんだけれども。