台湾猫散歩最終日の1月28日は朝から雨が降っていた。前日も朝のうちは雨だったが、同じ雨でも一時降って止むのか、それとも長い時間降り続くのか、外を眺めていれば何となく分かるものだ。「たぶんこの雨は帰るまで止まない」。そう予感して軽くため息をつくと、ベッドから這い出て風呂場に向かった。時刻はまだ暗い6時だった。
夕べの十分老街は遅くまで賑やかで、部屋の窓からは夜空に浮かぶ天灯の明かりがちらほらと見えていた。茶トラの店で雞腿飯を食いっぱぐれたためお腹が空いているが、民宿に朝食はついていない(前回の記事はこちら)。老街に行けば何かあるかなあと思い、窓の外を眺めながら雨が弱くなるのを待っていると、遥か彼方に猫が見えた。
殺風景な景色だが、宿の名誉のために書いておくと、こちらは眺めの悪い方で、左に視線を転じれば基隆河の渓谷が見える。ただしそれ自体あまりきれいなものでもなく、目を凝らすとあちこちに天灯の残骸が落ちていたりしていて、ちょっとげんなりする。この宿で良かったのは、部屋が広くてきれいだったのと、台湾の安宿には珍しく、シャワーの湯量が豊富だったこと。安宿といっても1泊2,400元(約8,400円)だから、この国の民宿としてはかなり高い方で、前日泊まった淡水の宿は1,500元だった。従業員は英語が話せたので、外国人観光客を当て込んでいるのだろう。
宿を出たのは7時半。雨の止む気配はないが、台湾には亭仔脚と呼ばれるアーケード付きの街屋建築が多く、それほど濡れずに歩くことができる。まずは腹ごしらえと思って老街に向けて歩き出すと、道端から猫の鳴き声が聞こえてきた。
気配を嗅ぎつけたか、どこからかもう1匹登場。雨が降っていても出てくるものだな。
きれいな毛並みの子。台湾にはこんな感じの赤茶けたキジ色が多いようだ。
雨に打たれながら線路端を駅に向かっていると、猫の尻尾が見えてきた。昨日は観光客でごった返していたが、この時間、この天気で人通りはほとんどない。
さっきの尻尾は見失ったが、念のため近づいてみると、茶トラ白が軒下で雨宿りしていた。ちょっと失礼しますよ。
そうこうしているうちに、少し小柄な茶トラ白が現れた。さっきの尻尾はきっとこの子だ。
誰もいない線路端を行ったり来たりして遊んだ(動画はこちら)。ちなみに写真に写っている犬も人懐っこくて、猫と遊んでしゃがんでいると背中に乗ってきたりする。服は泥だらけになるし、そのたびに猫が逃げたり怒ったりするので、扱いに困ってしまった。
人懐っこい茶トラ白は15分ほどで遊びに飽きてしまい、うしろに犬を従えたまま歩き出すと、すぐに次の猫グループに遭遇した。
茶トラは強そうなスカーフを巻いている。キジ白はこちらにまったく興味なし。
観光客はいなくても、地元の人が集まるような食堂が開いているかも知れないと思っていたが、ダメだった。朝食を諦めて丘の上の集落に登ってみると、打ち捨てられたソファで寛ぐ猫を見つけた。
視線は俺ではなく、俺のうしろに鎮座している犬に向けられている。一緒に坂を登ってここまでついてきたのだった。
せっかく寛いでいたところ、余計な犬を引き連れて緊張状態に晒すのは本意ではない。撤収することにして丘を下り、菁桐行きの下り列車に乗り込んだ。予定では菁桐まで2~3時間かけて歩くつもりでいたが、この雨では無理だった。
次回はいよいよ最終回。途中下車した平溪や、終着駅の菁桐で出会った猫たちを紹介する。