甲信地方で生産された生糸の集積地だった八王子は、かつて絹製品の産地でもあり、輸出用の生糸や織物を横浜港まで運ぶため神奈川往還が開かれた。絹の道とも呼ばれるこの道は横浜線の開通とともに廃れたが、今も一部の区間が散策道として整備されていて、俺も2年半ほど前に猫を探して歩いたことがあるが、猫というのは人とともに暮らす動物なので、付近に民家のない古道で見つけることはできなかった。
今日歩いたのは絹の道のサブルートとなる峠道で、具体的には南大沢駅近くの栗本橋というバス停から、京王線の長沼駅までの約5.8km。まばらではあるが沿道には民家が並び、春の野花が咲き乱れる里山散歩はとても快適だった。
しかし、鄙びた景色を楽しめたのは前半まで。初めて通った絹ヶ丘団地はシルクロードというよりチベットだった。野猿峠に近い急斜面から広い範囲に住宅街が展開し、坂の勾配は最も急なところで25%近いと思われた。頂上付近は歩き回るのも困難だったが、郵便配達のバイクとすれ違ったりもして、チベットにも人の営みがあることを思い出させるのだった。
里山区間では1匹の猫に出会った。
休日なのに人も車もほとんど通らない。道端の猫はずいぶん前から俺を見つけていたようだ。
チベット区間では三毛に出会った。山からだいぶ降りてきたが、それでも標高は140mほど。
2匹ではちょっと淋しいため、駅から自宅まで猫ロードを経由してみた。
無意識に閾値を超えてしまったらしく、腰を浮かせて逃走態勢に入った。こいつは初めてだと思うけど、うちの近所は茶系が多いから自信ない。
猫の丘はささやかな丘。でも人間が登るのは難しいので、寛ぎ場所にはもってこいだ。