俺が本物のリビアヤマネコを見たのは2013年6月と12月の2回、横浜市内のとあるペットショップでのことだった。夥しい種類の動物が売られていたそのショップの中で、リビアヤマネコは非売品として大切に飼育展示されていた。久しぶりに会いに行こうと思い立って店長さんにメールを書いたら、今日返信があり、残念なことに1月9日に死んでしまったとのことだった(享年12)。
イエネコのルーツとして知られるリビアヤマネコは、飼育展示している動物園がとても少ない。その辺のキジトラを檻に入れておいても、きっと誰も気付かないくらい似ているから無理もない。横浜の個体が死んで以降、国内で飼育している施設や団体はもう存在しないのではないかと思う。ワシントン条約の附属書IIに含まれるが、環境省の定める特定動物ではないので、輸入すれば個人で飼うこともできなくはないはずだが、見た目は「ただのキジトラ」なのに対し、飼育は格段に難しいから、よほど物好きでもなければ、わざわざ高いお金を出して買わないだろう。
ただ、俺はもっとちゃんと観察したかった。国内がダメなら海外と思って調べているが、探し方が悪いのか、飼育している動物園がなかなか見つからない上、あったとしてもドバイとかドイツとか飛行機で10時間以上かかるところばかりだ。そこまでするくらいなら、自然環境下で普通に見られるアフリカに行った方がマシだが、「ただのキジトラ」のために地球の裏の方まで行くとなったら、いよいよ酔狂から酔が取れることになる。
今日の夜勤前の散歩は京王高尾線の狭間から中央線の西八王子まで。1匹目は電車に乗る前に見つけた黒白。
狭間をスタートしたのは12時半すぎ。南浅川に至る急峻な崖線を階段で降り、平坦な道路に出てほっと一息つくのも束の間、日陰からこちらを窺う黒い影に気づいた。
鈴をぶら下げた黒はお店の中が気になるみたい。接客中で外に出されちゃったかな。
予定していたコースでは黒が1匹だけだったので、少し遠回りして既知の猫路地を訪ねてみた。更地の奥で地面を嗅ぎ回る物体が見えるかな。
もう少しアップと思って歩み寄ったら飛んで逃げて、隣の敷地で動かなくなってしまった。
リビアヤマネコが家畜化してイエネコになったというのが現在の定説だが、最近俺はそう思えなくなってきている。家畜ならみんなもっと懐いてくれても良さそうなものなのに、逃げられる比率が高すぎるからだ。リビアヤマネコは世界中に分布を広げただけで、本当は家畜化などしていないのではないだろうか。その証拠に、離島や山間に住む野良猫が、比較的短期間で野猫化する(つまり野生に戻る)ケースも多いと聞く。猫にとって人間界は遺伝子を残すための仮宿で、彼らは家畜のフリをしているに過ぎないのではないだろうか。
俺たち人間が君たちの声や姿を可愛らしいと感じるのは、きっと思う壺なんだろうね。
目をまん丸にして警戒している。呼んでも固まったまま動かない。
今日は雲が多くて、日が差したり翳ったり。ごろーんは今のうちに素早くね。
今日は寄り道に助けられた日だった。ここがなければ2匹で終わっていた。