紀行作家の宮脇俊三が台湾鉄路の全線を乗り潰したのは1980年。その時の紀行文に「台湾鉄路千公里」という表題が付けられているので、それから40年経った現在は二千公里ぐらいかと思って資料を調べたら、意外にも旅客営業路線は1057.6kmに留まっていた。電化、高架化、複線化など設備の更新に注力している台湾鉄路管理局ではあるが、1980年以降に開業した路線は、南迴線、六家線、沙崙線の106.6kmに過ぎない。それに対して廃止された路線は淡水線、新北投線、東勢線などいくつもあるので、差し引き100kmも増えていないわけである。
台湾で猫散歩を続けるうち、結果的に台鉄の多くの路線を利用することになり、ある時期から全線完乗を意識するようになったことは、以前の記事にも書いた。やるとなれば1980年当時より現在の方が格段に楽で、その気になれば台湾島を一周するクルーズトレインが毎日運行しているし、乗り潰しの面倒な支線の多くは廃止された。そもそも40年前は南迴線が開通していなかったので、台東から枋寮までの南端部はバスで山越えするほかなかった。
今回の猫旅までに未乗区間として残っていたのは、台中線の一部(苗栗~台中52.7km)、宜蘭線の一部(蘇澳新~蘇澳3.4km)、内灣線の一部(内灣~北新竹26.5km)、六家線(六家~竹中3.1km)。今回は台湾各地の猫を訪ねて歩きつつ、これらの区間の列車に乗り、台湾鉄路全線完乗を達成する。
まずは台湾猫の1匹目を。
出発は11月25日。今回の猫旅もいつものように、中華航空223便で羽田から台北松山へ飛んだ。チェックイン後に乗り遅れた客がいたため、当該旅客の預かり荷物を取り出す作業が発生し、台北松山には約10分遅れて到着。慌てて捷運で台北へ移動し、11:46発の高鉄で新竹へ向かった。
台湾高鉄の新竹駅と在来線の新竹駅は7kmほど離れていて、両者は内灣線と六家線という在来線で結ばれている。内灣線は新竹~内灣の27.9kmを結ぶローカル線で、終戦後の1947年に開業した古い路線だ。一方、高鉄の開業後、高鉄新竹と在来線の新竹を結ぶため、内灣線の竹中から分岐して高鉄新竹までの1区間3.1kmという短い路線が新設された。これが2011年に開業した六家線で、全列車が竹中から内灣線に乗り入れて新竹まで直通している。このため六家線の敷設と併せ、もともと非電化だった内灣線についても、竹中~新竹の高架化や電化が行われた。
ちなみに高鉄新竹と接続している在来線の駅名は「六家」で、外国人観光客にとっては非常に紛らわしい。以前もブログに書いたことがあるが、高鉄は駅名に関しては頑ななまでに原理主義(?)を貫いていて、在来線と離れているなら日本のように新横浜とか新大阪のようにすればいいのに、どんなに離れていても在来線と重複する駅名を改めようとしない。要するに俺が高鉄に乗って目指したのは高鉄の新竹で、その駅は在来線では六家と称する。高鉄の新竹すなわち六家で六家線に乗り換え、隣の竹中まで1駅4分乗車して、六家線の乗り潰しを達成したというわけ。
六家線完乗後は竹中から猫散歩をスタートしたが、高架化工事から10年も経っておらず、沿線には猫の気配がなかった。台風並みの強風が吹いていたこともあり、隣の新荘まで4.1km歩いて見事に空振り。その後、新荘~竹中、竹中~内灣と列車を乗り継いで、次の散歩地の内灣でようやく会えたのがこのサビだった。
内灣は山に囲まれた小さな集落で、観光スポットになっていることは事前に知っていた。ただ道行く人々のほとんどは恐らく台湾人で、外国から観光客を集めるほどの訴求力がこの地にあるかというと、それは微妙というのが正直なところ。俺にとっては猫さえいればどこでも魅力的な街なんだけれども。
例えばあのように。
高台から見えた黒白の許へ急いでいると、さらなる高みからこちらを眺めているのがいた。
さっきのサビとは違うサビだね。こんにちは、私は日本から来た猫好きですよ。
もしもし、お昼寝中のところ済みませんが、ちょいとモデルになってくださいな。
内灣は猫の多い街のようで、駅の待合室には地元猫と思しき写真がいくつか展示してあった。その割にそれほど会えないのは、日中帯で観光客が多いからだろう。朝来たいのは山々だが、台鉄完乗や阿里山訪問のため経由地や旅程に縛りがあって、今回の猫旅(特に前半)は猫探しを二の次にした部分が多い。
内灣で見かけた最後の1匹は茶トラ。
一瞬止まったところを撮影できたが、基本的に動きっ放しの子。お腹が空いているのか、大きな声で鳴きながら、駅の周りを歩き回っていた。
内灣散歩のあとは16:47発の新竹行き気動車に乗って折り返し、50分ほどで終点の一つ手前の北新竹に到着。これで内灣線の未乗区間を潰したことになり、新竹からは18:09発の自強号で彰化へと移動。途中、苗栗~台中を通過したことで台中線の未乗区間も潰れ、残るは蘇澳新~蘇澳3.4kmのみとなった。
そしてこちらはこの日の宿泊地、彰化県は和美鎮の民宿で寝ていた猫。
宿の小姐は日本語の達者な人だったが、和美にこれといった観光地はなく、鉄道も通っていないので、訪れる日本人はとても少ないそうだ。この子の名前は「にーきゅう」。台湾華語でそう呼ぶのかと思ったら、漢字で「二九」だそうだから、本来はÈrjiǔと発音するのだろう。3年前の12月29日に車の下にいたのを保護したので、二九。猫好きの小姐らしく、宿には猫部屋まであったが、二九以外に3匹いるという猫の姿はなかった。
次回は朝の和美から。