台湾猫旅3日目(11月27日)の朝は、嘉義県の山中に位置する奮起湖から。
この前日は、和美、二水と移動しながら散歩して、正午すぎに嘉義へ到達。当初組んだ旅程では、この日は嘉義市内に泊まり、朝のうちに街なかを散歩して、9:00発の阿里山森林鉄路で阿里山方面へ向かうつもりだったが、結果的には前日のうちにバスで奮起湖へ移動した。世界的観光地である阿里山や奮起湖は、人出の少ない朝のうちに散歩しないと、観光客でごった返して猫探しは厳しいだろうと考えたからだ。
嘉義から阿里山方面へ向かうバスの多くは午前中の発車だが、嘉義県公車(県営バス)の7302路に台鉄嘉義駅15:06発というのがあり、それが奮起湖へ向かう最終便となる。急カーブの連続する山道をかっ飛ばすだろうことは予想していたが、朝から頭が痛かったこともあって、右へ左へ激しく揺られるうちに車酔いしてしまい、1時間40分のバス旅は想定外の地獄となった。特に最後の30分ほどはいつゲボしてもおかしくないレベルで、外国のバス車内でぶちまけて強制送還になっては困るので、唾を飲み込んで必死に我慢した。16:40ごろになって、ようやく「下一站、奮起湖」という車内放送が流れ、天にも昇る思いでピンポンを押して下車してみると、何とそこは降りるべきバス停の二つ前。俺が降りるのは「奮起湖」ではなく、終点の「奮起湖終点站」なのだった。紛らわしい名前をつけないでもらいたい。
1時間40分を耐え抜いたあとの風呂は最高だった。この日泊まったのは奮起湖大飯店という宿で、風呂場には檜の浴槽が設置されていた。そもそも阿里山森林鉄路は日本統治時代、タイワンベニヒノキなどの豊富な森林資源を搬出するため、台湾総督府によって敷設された。蒸気機関車が牽引していたころは、嘉義から奮起湖(距離45.8km、標高差1,375m)まで4時間半を要し、夏場などは、嘉義で買った弁当が奮起湖に着くころには傷んでいたそうだ。そのため奮起湖は機関車だけでなく乗員や乗客にとっても補給ポイントとなり、駅弁として売られていた奮起湖便當が成功し発展したのが奮起湖大飯店というわけ。最盛期には1列車あたり1,000個も売れていたそうで、宿で食べた奮起湖便當は台湾一との評判に違わぬ旨さ。そのころにはもう車酔いのことなど忘れていた。
奮起湖の朝の散歩は黒白猫との出会いで始まった。
ひとしきり毛繕いしたあとは、動画を撮影する俺を追いつつ、付近の巡回に出発した。
とても人懐っこい子で足許から離れない。名残惜しいけど、そろそろ次に行かないと遅くなっちゃうんだ……。
山間のことなので雨も覚悟していたが、幸い天気はこの通り。猫もぼちぼち出歩いている。
こちらに気づいて少し目を丸くした。首輪が見えているので飼い猫だね。
か細い鳴き声に気づいてフェンスの向こうを見ると、コンクリートの地面に茶色い渦巻き模様が座っていた。
時刻は8時すぎで徐々に人も増えてきた。猫のご飯タイムも近い。
1時間半ほど奮起湖の老街を歩き回って、宿に戻ったのは8時半。館内のレストランで免費早餐(無料朝食)を食べたあと、前夜のうちに予約していたタクシーを待つためロビーに下りると、エントランスから猫が中を覗いていた。
さっき見かけた黒かと思ったが、耳カットされているので別猫。この直後、本物のタクシードライバーが現れて、見えなくなるまで逃げていった。
奮起湖大飯店を出発したタクシー(と言っても地元の人が運転する白タク)は、次の目的地である十字路へ向けて、阿里山公路を快調に飛ばした。一日で十字路、阿里山と回り、それぞれの場所で猫まで探すとなると、この区間だけはタクシーに頼るほかなかった。車窓に広がる玉山連峰の山並みをカメラに収めたりしながら、十字路に到着したのは9:40。ここは現時点での阿里山森林鉄路の終着駅であり、ここから阿里山方面は2009年8月の台風被害を受け、未だに運休中だ。
十字路は急峻な山肌にへばりつく小さな集落で、標高は1,534m。ここでは阿里山行きのバスが出る11:20までを散歩時間にしたが、急な坂道にやられて死にそうになっただけで、猫は見つけられなかった。
十字路から阿里山までは嘉義県公車の7329路。嘉義から乗ってきた客で満員のところ、立席承知で乗せてもらったが、例によって右へ左へ大きく揺れるので、とても立ってはいられない。床に座ってポールにしがみつき、また車酔いしたらどうしようなどと考えているうちに、20分ほどで終点の阿里山に到着した。
阿里山での滞在時間はわずか1時間。観光地然とした場所ではなく、地元住民の集落で猫を探そうと思って歩いていると、果たして眼下に広がる長屋の周囲には人、犬、そして複数の猫の姿が見える。ところが近寄ってみると、「遊客請勿進入」つまり観光客立ち入り禁止との看板が立っていて、俺のような者は立ち入れないことが判明した。
思わず絶望が「がびーん」と口をついて出たが、人間の考えるエリアなど猫には関係ないのであって、よく見ると普通に道端に佇んでいた。
人の暮らしあればそこに猫あり。こちらは移動販売車とおこぼれを狙う面々。
地面にもそっくりなのがいた。これはもう間違いなく兄弟だろうな。
地面の方が両目の間隔が広いが、もっと分かりやすいのは右前足の色班。こちらは正面からはっきり見える大きさ。
塀の上のは警戒心がものすごくて、指で挨拶することなど到底無理。地面の方は多少フレンドリーだったが、3mが限界だった。
紙幅が尽きたので今日はここまで。明日も引き続き阿里山や林鉄沿線で見かけた猫を紹介する。