今朝は関東平野部でも雪になると言われていたが、蓋を開けてみれば雨すら降らず、単に曇って暗くて陰鬱な朝でしかなかった。猫散歩しようと思えばできたがそんな気になれず、7時すぎに家を出て多摩センターでコーヒーを飲んでそのまま出社した。ちなみに近所の黒煙ちゃんには会えて、ごろーんもしてもらえたので気分は幸せだった。一昨日、黒煙邸の奥さんと話した時に、みーちゃんという名前だと教えてくれた。いつも武蔵と見つめ合っているのは、両想いだからなのではなく、反りが合わないからだそうだ。
今日紹介するのは台湾猫旅2日目(11月26日)の朝、彰化県和美鎮で見かけた猫から(前回の記事はこちら)。この日は6時半に宿をスタートして、2時間あまりかけて和美の街を一回りしたわけだが、7.5kmも歩いた割にそれほど猫が見つからず、散歩地の選定を誤ったかと思いながらバス停へ向かった。台湾で老街というと清朝時代~日本統治時代に整備された古い町並みのことで、猫も多い傾向にあるが、和美にはそうした老街がごく狭い範囲にしかなく、しかもそこに市場があるものだから、早朝にもかかわらず多くの人やスクーターでごった返していた。猫なんか引っ込んでしまって出てきそうになかったし、いたとしても写真を撮るのが憚られる混雑具合だった。
次の散歩地へ向かうため、和美バス停にたどり着いたのは8時半。バスが来るまでの10分ほどを所在なげにしていると、ふと振り向いた後ろの路地に猫がいるではないか。
3匹いたので有頂天になったが、2匹はすぐさま逃走し、細面の1匹が残った。キジトラの家族かな。
なかなかの美人さん。猫の美しさって結局はキジトラに帰結するよな。
そんな俺たちの様子を眺める猫の母子。ここはみんなキジトラなのね。
乗るべきバスは6934路の彰化駅行きだが、事前に彰化客運のウェブサイトで調べておいた発車時刻になってもバスが来ない。仕方がないので再び猫のところへ行くと、さっきの母猫が日なたに出てきていた。
舌の根も乾かないうちにまた会っちゃったね……。
8:43に発車するはずだった6934路は結局現れず、9時すぎになってようやく来たのは同じ彰化駅行きの6906路だった。このため彰化から乗る列車も1本遅くなり、次の散歩地の二水に着いたのは30分遅れの10:29。ここでは50分ほどかけて3.5km歩いたものの、キジ白を1匹見かけたのみだった。二水を散歩地に選んだのは、2018年1月の猫旅で訪れた時、魅力的な細い路地を見て気に入ったからだ。あの時は初日から土砂降りの雨で、最初に訪れるつもりだった瑞芳を諦めて、集集線の終点である車埕へ向かい、その結果もっと雨がひどくなって散々な目に逢った(こちらの記事)。その時、集集線に乗り換えたのが二水であり、列車が来るまで雨の中を歩き回っていたら、赤煉瓦の民家が立ち並ぶ細い路地の奥で、猫がぽつねんと雨宿りしていたのだった。
この日もその時と似たようなシチュエーションだったが、天気は晴れで気温は25℃ほど。猫探しには少し暑すぎたようだ。
うーん、やっぱり逃げられる。細い路地は迂回できないし、一直線に向かっていったら、そりゃ逃げるよねえ。
今回の猫旅では台鉄完乗のほか、阿里山森林鉄路に乗るという大きなイベントがある。林鉄の詳細はこの記事の最後に紹介するとして、平日の林鉄は朝9時に嘉義を発って十字路へ向かい、夕方17時近くに戻ってくる1往復しか列車が設定されていない。往復とも林鉄に乗るとなると、それだけで丸一日潰れるので、今回は十字路から嘉義までの復路だけ林鉄に乗る旅程を組んだ。この日は夕方のバス(嘉義県公車7302路)で奮起湖まで行き、そこに1泊して翌11月27日にタクシーで十字路へ。奮起湖や十字路で猫を探したあと、さらにバスで阿里山へと進み、最後に満を持して林鉄で嘉義へ戻るという完璧な旅程である。
そんなわけでこの日最後の散歩は、嘉義駅前から奮起湖行きのバスが出るまでの2時間ほど。この日の嘉義は30.7℃まで気温が上がり、相変わらず猫探しには不適だったが、日が傾くにつれて何匹かは見つけられた。
お腹を空かせているようだったので、日本製造的豪華貓乾乾をひとつまみ進呈した。足りない分は地元の人に何とかしてもらってくれ。
日が傾くにつれて猫の数は多くなるように思えたが、残念ながらここで時間切れ。嘉義市には夥しい数の猫が生息している予感がするので、ぜひまた来て今度は早朝にゆっくり歩いてみたい。
なお、嘉義最後の猫はこちら。
台湾でよく見かける、細面で薄い色調のキジ白。お腹の感じがお母さんぽい。
最後に阿里山森林鉄路について。
この鉄道の建設が始まったのは日本統治時代の1906年で、タイワンベニヒノキなどの豊富な森林資源を運び出すため、当時の台湾総督府により敷設された。本線の阿里山線は全長72.7kmで、途中、複雑なループ線や多段スイッチバックを駆使しながら、標高30mの嘉義から2,274mの沼平まで最急勾配62.5‰で登り切る。これだけの標高差なので、車窓からは熱帯から亜熱帯そして温帯へと植物の垂直分布が遷移し、殊に標高1,800m以上に現れる樹齢1,000年以上のヒノキの巨木群は壮観というほかない。三つの植物相に跨がる鉄道路線は阿里山森林鉄路が世界唯一だそうだ。
軌間は762mmのいわゆるナローゲージで、険しい地形を走るため事故や災害が多く、現在運転しているのは嘉義から55.3km地点の十字路(標高1,558m)まで。十字路から先は2009年8月の台風被害により寸断され、未だに全線復旧の目処は立っていない。
かつては日本国内にも林野庁の管理する森林鉄道が網の目のように敷かれ、明治時代から1960年代にかけて活躍していた。その数は最盛期で1,000路線、総延長は8,000km以上に及んだというから驚きだ。残念ながら俺の幼少期には、それらはすでに衰退期に入っており、物心ついた時にはほとんど全滅していたので、森林鉄道はもちろんナローゲージの列車に乗るのも今回が初めてとなる。台鉄の完乗と運転本数の少ない林鉄に乗ることで、今回の猫旅の前半は旅程にかなりの制約が生じたが、それでもこの二つは外したくなかった。
長くなってしまった。次回は標高1,403mの奮起湖の猫から。