六花谷の人懐っこいキジ白に六花咪と名付けたのは、寒い冬のある日、毛皮に雪の結晶がくっついていたからだ。六花は言うまでもなく雪の別名であり、咪というのは主に台湾や中国で使われる漢字で、mīという発音が猫の鳴き声を表している。中国語で貓というと日本語でも単なる猫だが、貓咪となると「猫ちゃん」と敬称接尾辞がついて親しみが増す。中国語圏で三毛猫を三花と呼ぶことがあり、きれいな言い方だなと思って真似してつけたのが六花咪の由来だ。
2016年12月4日に初めて会った六花咪は、その人懐っこさと素直な性格から何度か里子に貰われたことがあるそうだが、極端に臆病な性格が災いしていずれも上手く行かず、そのたびに谷へ戻された。先月22日に保護されたと聞いた時も、面倒を見ている人の制止も聞かずに洗濯ネットに入れて持ち去るという乱暴さに呆れながら、どうせまた戻ってくるかも知れないと高を括っていた。しかし続報がないところを見ると、今のところは新居で上手くやっているのだろう。その境遇が続く限り再び背中に雪を積もらせることはないかも知れないが、そのような手癖を持つ人が他者を愛せるのかという点で疑問には思う。
夜勤明けに立ち寄った六花の谷は終わりかけの紅葉が鮮やかで、親しい知り合いを失ったことが夢の中の出来ごとのように思えた。
今日の1匹目は職場近くに住むキジ白の妹。団地の片隅でちょこなんとしていた。
バスの時間が迫っていたので立ち去ろうとすると、慌てた様子で追いかけてきた。可愛いねえ。
なので元の場所に戻って少しだけ撫でた。京王バスはトロいからどうせ遅れて来るんだよ。
街並みを俯瞰する六花谷の高台。気配を察してまろび出てきたのはゴンちゃん。
ドスの利いたハスキーボイスでよく鳴くゴン。六花咪はもういないはずと思って振り向くと……、
近所の茶トラがいたのだった。この子も個別に接すれば人懐っこい子。
同じ毛色の2匹は間合いを取って唸っている。動画はこちら。
もうここには君たちだけなんだから、仲良くやんなさいよ(たまに黒白ボスが来るけど)。
ゴンは船を漕ぎ始めた。耳を澄ましても六花咪の鳴き声は聞こえない。
六花谷のあとも散歩は続くが、中途半端に写真が多かったので、この続きはまた別の機会に紹介する。なお次回はあの怪しいチョビ髭から始まる予定。
あと、ゴンちゃんは当初平仮名で「ごん」と名付けたが、文章の区切りが分かりにくくなるので片仮名に改めた。