台湾田舎巡り(20)


蘭嶼郷の猫

 今日紹介するのは台湾猫旅の5日目(3月23日)の朝、蘭嶼最後の散歩で見かけた猫たち(前回の記事はこちら)。
 そもそも今回、旅程を1泊延長してまで蘭嶼に滞在したのは、この島の猫たちの毛色に特定の傾向があるか観察したかったのが理由の一つだ。台湾原住民の多くはY染色体ハプログループO1aに属するとされていて、この系統はアフリカを出発点とする人類拡散に伴い、中央アジア〜サヤン山脈の北側から華北平原、長江流域、百越を経て台湾に至り、さらにフィリピン、マレー諸島へ移動していったと考えられている。一方、日本人は特定のグループが多数を占めるのではなく、O系統であればO2b、C系統ならC2、D系統ならD1a2aというように複数の系統が混在しており、それらが比較的離れた系統であることから、アフリカを旅立った人類が様々なルートを通って日本にたどり着いたことが分かる。Y染色体ハプログループは言語学上の語族と関連性が高く、例えばO1aはオーストロネシア語族に関連していて、蘭嶼の達悟タオ族が話す達悟語はフィリピン領バタン諸島で話されるイヴァターヌン語と互換性が高い。もし人類が新天地への移動に猫を同伴していたなら、人間の語族と同様に猫にも「毛色族」と呼ぶべき傾向が存在するはずで、それを俺はこの目で確かめてみたい。実際、台湾や東南アジアには霜降りの猫が明らかに多いのである。
 そんなわけでここは分倍河原の自宅から2,300km離れた紅頭村の漁人集落。ほかの多くの原住民集落と同様、山肌の斜面に展開する坂道を登って行くと、左手の養豚場に豚ではなく猫が見えてきた。あれはきっとネズミ要員だな。
蘭嶼郷の猫

蘭嶼郷の猫

 突然の来訪に驚いた表情。単なる猫好きの日本人ですからお構いなく。
蘭嶼郷の猫

 地面にも似たようなのがいるね。豚とは協力関係にあるのか和やかな雰囲気。
蘭嶼郷の猫

「捕食しようにも体格が違いすぎるわ」
蘭嶼郷の猫

 同じ毛色の3匹が養豚場のメンバー。
蘭嶼郷の猫

 次の猫グループは若手が2匹。もう7時半近いから朝ご飯が終わったところかな。
蘭嶼郷の猫

「ややっ、日本人観光客だ!」
蘭嶼郷の猫

 くんくんと音を立てて指を嗅いでいる。異国の匂いがするのかな。
蘭嶼郷の猫

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 とても人懐っこい2匹。蘭嶼の猫ってフレンドリーなのが多いな。
蘭嶼郷の猫

蘭嶼郷の猫

 しかし集落に存在するのは猫ばかりではなく、写真にはあまり写っていないが犬の方が断然多いのである。台湾に放し飼いの犬が多いのは有名だが、田舎に行けば行くほどその密度は高く、飼い犬なのか野良犬なのか野犬なのか判然としないのがうようよしている。野良犬でも街なかで暮らして人馴れしているのは紳士的だが、田舎では番犬として飼われていることが多く、不審者(例えば俺)に向かって吼えるのが彼らの使命であり、野犬の場合も不用意に縄張りに入ればやはり激しく吼えたてられる。2匹の茶トラ白を構ったあと、どうやら俺はこのどちらかを冒してしまったらしく、3頭の大型犬に纏わりつかれたのには本当に困った。吼えるだけでなく、立ち上がって両前足で体を押してくるわ、カメラバッグのストラップを咥えて引っ張るわ、立ち去ろうにも三方から迫ってくるわで逃げられない。抵抗して咬まれでもしたら速やかに医療処置を受けることが必要で、離島でそれが不可能となればヘリコプターで台湾本土へ搬送されることになる。夕方のタブロイド紙に「貓奴的日男被狗咬傷、被直升飛機緊急送往!」といった見出しが躍ることは確実で、アホとしか言いようがない。
 幸い3頭の犬に敵意はなく、彼らなりのやり方でじゃれようとしているらしかった。とはいえ友好的に咬まれても痛いことに変わりはないので、猫用のカリカリを嗅がせて地面に撒き、そちらに気を取られた隙にようやく逃れることができた。犬たちにも持ち場があるらしく、20mも離れればもう近寄ってくることはなかった。
蘭嶼郷の猫

 はー疲れた。この島はとりわけ犬が多いから緊張するよ……。
蘭嶼郷の猫

蘭嶼郷の猫

 逃げ腰でこちらを見つめるのは個性的な毛色の子。希釈遺伝子が入っているのは確実だけど、単なるサバトラ白ではなく、とても珍しいライラックマッカレルタビー白(lilac mackerel tabby and white)かも知れない。キジ白を基準にすると、B遺伝子座の遺伝子型が劣性のbbに変異して黒い部分がチョコレートになり、それがさらにD遺伝子座のddで希釈されたもの。もともと台湾には赤茶けた色調のキジ色が多く(一例)、それが希釈されたものだとは思うが、赤茶けた原因が食餌ではなく遺伝ならやはりライラックなのだろう。この毛色に遭遇したのは10年以上前に福生市内で見かけたのと、一昨年の暮れに銚子市内で見かけた2匹のみ。タグは「その他」に分類しておく。
蘭嶼郷の猫

 太平洋を望む高台のレストランで猫が寛いでいた。
蘭嶼郷の猫

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 呼んでも反応の薄い茶トラ白の背後にもう1匹。あちらは眠りこけていてもっとダメ。
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 そんな俺を怪訝そうに見つめる白い美人さん。蘭嶼で2匹目の白だ。
蘭嶼郷の猫

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 遠方に見える海はやや波が高い。昨日ほどではないものの風も強いので、飛行機が飛ぶか急に心配になり、少し早めに切り上げて宿へ戻ることにした。
蘭嶼郷の猫

 その前に薄色がもう1匹。
蘭嶼郷の猫

蘭嶼郷の猫

 進退窮まって固まるサバ白。少し長めの被毛だね。
蘭嶼郷の猫

 この子もやや赤みを帯びているが、さっきの子ほどではないのでサバ白でいいと思う。この違いはとても微妙なのだけれども。
蘭嶼郷の猫

 宿に戻ると入口の前で母子と思しき猫が日なたぼっこしていた。そういえば昨夜へろへろになって帰ってきた時、どこからか子猫の鳴き声が聞こえていたなあ。
蘭嶼郷の猫

蘭嶼郷の猫

 母を残して子猫が逃走し、俺も仕度して空港へ向かった。たった1泊で毛色の傾向を把握することはできなかったが、特徴的なところでは、蘭嶼には白猫のW遺伝子と希釈のd遺伝子が存在していて、本土から持ち込まれたであろう猫との混血が進んでいることを窺わせた。キジ、黒、茶という猫の基本色は揃っていたがシルバー系は見なかった。台湾に比較的多い霜降りを1匹も見なかったのも意外だった。
 台東行きの德安航空7504便は10:25に蘭嶼空港を飛び立った。二度に渡る体力的なダメージから回復しないまま次に向かうのは花蓮県の玉里鎮。スクーターが駄目ならレンタカーでも借りておけば良かったと後悔したが、1日2,000元は高すぎたし、離島で事故でも起こしたら面倒なので選択肢に入れていなかった。犬に咬まれるリスクを冒しておいて、車の運転を避けるというのも矛盾しているが(続く)。
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