坂道と強風にやられ、満身創痍で蘭嶼をあとにしたのは3月23日の午後だった(前回の記事はこちら)。
この前日の22日、金崙から太麻里そして蘭嶼へと移動する中で食事を取ったのは朝9時台の一度きりで、そこで口にしたのも木瓜牛乳500cc、鴨肉サンドイッチ2枚、茶葉蛋1個というささやかなもの。この粗食で25kmの距離を山越えし、逆風に耐えてママチャリを漕いだのだから我ながらエネルギー効率のいい体だと思うが、その夜は疲れすぎてせっかく買った炒飯も喉を通らず、丸一日以上ほとんど何も口にしていなかったので、食欲はなくても腹は減っているという奇妙な状態だった。
台東駅に着いてすぐに俺は駅構内のファミマで駅弁とバナナを買い、列車の時間まで待合室の椅子に座って休んでいた。ファミマの隣に台鉄ショップがあることに気づいたのはその時で、台鉄のおばちゃんがこちらに向かって「便當、便當、臺鐵便當」と盛んに売り声をかけるものだから、ファミマの袋をぶら下げた俺は居心地の悪いことこの上ない。臺鐵便當すなわち台鉄弁当。台湾の駅弁はどこで買っても排骨と煮卵と菜っ葉なのだし、おばちゃんのノルマ達成に協力すれば良かったと後悔したが、さすがに二個食べるほどの元気はない。それにしてもおばちゃんの売り声は中国語っぽくなく、まるで日本の焼き芋屋が「お芋、お芋」と呼びかけているかのようで懐かしかった。あまりにも同じ抑揚で繰り返すのでよくよく見ると、ビェンターンと連呼しているのは録音で、おばちゃんは黙って立っているだけなのだった。
台東を11:38に発車した653次莒光号は1時間半ほどで玉里に到着。2018年11月以来となるこの街は三度目の訪問で、人口25,000人という規模の割には長閑で散歩しやすく猫もいて印象に残る街の一つだ。当初は旅程に入れていなかったが、1泊延長したことで時間に余裕が生じたので立ち寄ることにした。ただこの日の気温は30.6℃と暑く、日差しも強かったので見えるところに出ているのがほとんどいない。たまにいたと思えばあんな感じで車の下で伸びている(2匹いる点に注意)。
木陰で休む猫を見つけて舌を鳴らすと、こちらに向かって飛び出してきた。
2回転ほどして車の下へ潜ってしまった。展開が早すぎて追いつけなかった。
ここは2017年1月にも覗いた路地。当時舗装工事中だった路地はすっかり年季が入り、猫は日陰で香箱を組んでいる。
あとから出てきたキジトラと連れ立って車の下へと移動した。やっぱり30℃超えだとそうなるよなあ。
諦めたふりをしてその場を離れ、1分後に戻ってみるとすっかりリラックスしていた。もちろんこの直後、再び車の下へ。
玉里に来たら必ず立ち寄る猫拠点。老街市場の外れにたどり着いてはみたものの、14時すぎというのは最も閑散とする時間帯で、たくさんいるはずの猫の姿がちっとも見えない。期待していた場所だけに落胆を隠せず、立ち去る前にもう一度と思って周囲を見回すと、シャッターの下りた店舗の暗がりに猫が潜んでいるではないか。
よくよく見ると霜降りの毛皮。もしかして君は2017年1月にも会った子?
そんな話には興味ないか。でも俺は奇跡の再会だと思っているので大興奮なのだよー。
いつもに比べてかなり淋しい結果の玉里散歩だったが、最後に旧知の無事を知ることができたのは嬉しかった。次回はこの日最後の散歩となる花蓮県萬榮郷から散歩スタート。いよいよ台湾猫散歩も終盤を迎える。