猫を訪ねて伊豆諸島7(八丈島)


八丈町の猫

 今回の猫旅は最後の散歩地である三宅島に到着するまでの旅程に問題はなかったが、ちょうどそのころ伊豆諸島近海は寒気の影響で大気の状態が不安定になっていて、予約していた15:30発の調布行き(新中央航空408便)が飛ぶかどうか分からないという大変困った状態に陥ってしまった。調布に着いたら可及的速やかに自宅へ戻り、すぐに着替えて夜勤に出勤するつもりだったのに、飛行機が飛ばなければ物理的に出勤できないし、飛ぶことを期待して引っ張ろうにも早く連絡しないと二重に迷惑をかけることになる。タイムリミットに設定した14時の時点でも天候調査中のままだったので、職場には「現在三宅島にいて足止めを食う可能性がある」とありのままを伝えて代わりの人員を手配してもらったが、まさかあれほど穏やかだった洋上に雨雲が発生しているとは思いもしなかった。足止めを食うなら青ヶ島絡みだろうと思って完全に油断していた。
 旅の出来ごとはほかにも色々あるが、それらは追々書いていくことにして、今回の猫旅では、訪問した四島のうち御蔵島で猫を見つけられなかったことが最大の悔恨だ。初日に訪れた八丈島や御蔵島は最高気温こそ23.5℃とさほどではなかったものの、地元の人によれば年に数日あるかどうかという見事な快晴で日差しが容赦なく、12:35~14:45という真っ昼間の滞在中、見える場所に出てくる猫は皆無だった。飲み物を求めに入った商店の店主によれば「たくさんいる」のだそうで、実際に軒下に置かれたカリカリ皿を目撃したし、何なら微かな鳴き声さえ耳にしたような気がするがダメだった。絶海の孤島にまた来なければならないことを考えて、よほどこのまま泊まって行こうかとも思ったが、そうすると八丈島を散策する時間がなくなるので泣く泣く諦めた。どのみち近日中に大島を片付けに行くつもりだし、ついでに御蔵島にも寄って今度は1泊して確実に見つけてくる。
 猫の方は23日の猫旅初日、失意のまま御蔵島から八丈島に戻り、宿へ向かう前に立ち寄ったとある港湾施設にて。現地に到着したのは15時半すぎで、長くなった影の狭間に複数の猫が見え隠れしていた。
八丈町の猫

八丈町の猫

 だいぶ日が傾いたけどまだ何とか撮影できるかな。今朝は4時に起きてずっと動きっ放しだったから、君たちの縄張りで少し休ませてくださいな。
八丈町の猫

 バス停のたもとからこちらを見つめていた黒。呼んだらおずおずと近寄ってきた。
八丈町の猫

 ここでいちばん懐いてくれた子。はにかみながら近寄ってくる感じが可愛らしい子。
八丈町の猫

 太平洋を望む簡素な東屋でキジトラが寝ていた。
八丈町の猫

八丈町の猫

 私は本土から来た猫好きですよ。ちょっとだけ写真を撮らせて。
八丈町の猫

「うーん、おじゃりやれー」
八丈町の猫

 無尾に近いボブテイルが特徴の子。「おじゃりやれ」は「いらっしゃい」の意味。八丈島や青ヶ島の方言は関東の一方言として分類されるレベルではなく、ほかのどの地域にも属さない、奈良時代の上代東国方言の特徴を残す極めて特殊な言語なのだそう。アイヌ語、奄美語、国頭語、沖縄語、宮古語、八重山語、与那国語とともに、ユネスコが発表した世界消滅危機言語2,500語の一つにもなっていて、2012年の資料によれば話者は数百人ほどとされている。方言というのは人々の往来が隔絶される峠や河川(八丈島の場合は黒潮)などを境目にして涵養されていくものだが、近年の交通網の発達やラジオ・テレビ、インターネットの普及により急速に標準語化が進んでおり、八丈語の話者も今はそれよりもずっと減っているものと思われる。
八丈町の猫

 最初の写真にも写っていた日陰の猫。舌を鳴らしても反応がない。
八丈町の猫

八丈町の猫

 おお、君もボブテイルなのかー。
八丈町の猫

 この周辺にはざっと見ただけでも30匹かそれ以上の猫が行き来していた。普段俺はこういう極端に猫密度の高い場所を訪れることはほとんどなく、むしろ避けているくらいだが、ここは閉ざされた島の中ということもあり、猫たちの形質的な傾向がはっきり現れているようで興味深かった。八丈島は翌24日の朝にも散歩したが、そちらも含めてこの島の猫たちに接した感想を書いておくと、(1)さっきのキジトラやこの子のようなボブテイルがとても多い。(2)霜降りが多い。(3)サビが多い。……といった特徴を感じた。特にこの場所は子猫も多く、それらの半数近くはボブテイルのようだった。
八丈町の猫

 この写真なんかも3匹しか写っていないようだけど、建物の陰やフレーム外に多数の猫がとぐろを巻いている。
八丈町の猫

 ぜんぶ撮ろうとしたって土台無理だし、一度にたくさん遭遇するとどうしていいか分かんなくなっちゃうんだよね。
八丈町の猫

 なので、仲の良いキジトラと黒を中心に据えてみる。
八丈町の猫

八丈町の猫

 奥の方に茶色いのもいるね。
八丈町の猫

 クラシックタビーはこいつのほかに3匹ぐらいいたし、カラーポイントの親子も複数いて、毛色という点では満遍なく揃っている感じ。敢えて言えばやっぱりサビが多いかなあ。
八丈町の猫

 この子たちはまだ若くて無邪気。黒の方が少し大人びているね。
八丈町の猫

八丈町の猫

 そろそろ日が傾いて暗くなってきたので点描的に紹介していく。こちらはススキと麦わら。
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 サビの母娘。母は長い尻尾だけど娘は2匹ともボブテイル。
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 三毛の母娘。娘はやっぱりボブテイル。
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 これは……、お魚くわえたどら猫。
八丈町の猫

 とことこ。
八丈町の猫

 衆人環視もどこ吹く風。
八丈町の猫

 猫同士の力関係が作用しているのか、高みのギャラリーは黒が持ち帰った新鮮なダツを遠巻きに眺めるばかり。小骨が多いらしいから敬遠しているのかも知れない。
 以上、ここまでが23日の伊豆諸島猫旅初日。この日は朝4時に起床し、7:30発の全日空1891便で羽田から八丈島へ。1時間強の接続で東海汽船の東京行きに乗り換え、最初の寄港地である御蔵島で玉砕したのは冒頭書いた通り。御蔵島には2時間ほどの滞在で、14:45発の東邦航空22便(東京愛らんどシャトル)で八丈島へ戻るという旅程だった。
 なお、伊豆諸島の猫旅は去年7月にも神津島、新島、式根島、利島を訪れており、今回はその続編として扱うことにしたのでタイトルの通番は7から始まっている(前回最後の利島編はこちら)。将来行くかも知れない小笠原諸島を含め、東京都島嶼部猫散歩というタグをつけたので併せてどうぞ。
 次回は猫旅2日目の朝、八丈島散歩で見かけた猫たちを紹介する予定。
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