今日は天気が不安定と聞いていたが、蓋を開けてみるとそうでもなかったので、朝のうちに猫草の種を蒔いておいた。今は2匹とも年を取って毛繕いをしなくなってきており、お腹の中に毛が溜まらないので猫草を与える必要もないように思えるが、欲求だけは変わらず持ち続けているので出せば喜んで食べる。猫に限ったことではないが、相手の欲求を必要か否かだけで判断するのは表層的で、例えば換毛期の春にイネ科の植物を食べるのは毛を吐き出すという直接的な目的だけでなく、欲求を満たすことでストレスを軽減するという副次的な効果がある。同様に必要性について議論されることの多い日光浴もビタミンD云々だけではなく、そうしたがる猫の願いを叶えることが大切だと思う。そのような時にドーパミンやセロトニンといった脳内物質が生成されるのは人間と同じだし、そういう機会をできるだけ多く設けて猫のQOL向上に繋げたいのである。
猫レポートの方は台湾旅行の3日目(3月21日)、馬祖列島最大の島である南竿島から(前回の記事はこちら)。南竿島は周辺の無人島や岩礁とともに連江県南竿郷に属しており、連江県の県庁所在地にもなっている。日本の村に相当する人口6,000人ほどの小さな郷が県庁所在地というのも珍しいが、そもそも島嶼で構成される連江県は人口が約13,000人ほどしかなく、そこに属する自治体も郷が4つだけ。しかし東引島や西引島と同様に、南竿島は台湾にとって最も重要な軍事拠点の一つであり、国共内戦時代の1950年代には最大で5万人もの軍隊が駐留していたのだから、そこに県庁があっても不思議ではない。
この日、新臺馬輪で東引島を出港したのは所定より30分遅れの6:30。前日の夕方には猫だらけだった宿の周囲に猫の姿はなく、お別れの挨拶もできないまま凪の台湾海峡を2時間半近く航海して、南竿島に到着したのは8:50すぎだった。実はこのあと9:00発の船に乗り継いで隣の北竿島へ向かう予定だったが、さすがに10分では間に合わないので、台中行きの飛行機が出るまでの時間をすべて南竿島に捧げることにした。南竿島から北竿島まで片道15分とはいえ、実質3時間半ぐらいしかない滞在時間へねじ込むのはそもそも無理っぽく、結果的にはその方が落ち着いて行動できて良かったと思っている。
東引島を出た時は10℃ほどで相変わらず寒かったが、日中の最高気温20.4℃で快晴とくれば猫たちも過ごしやすい。しかしニンゲンにとっては起伏に富んだ急坂だらけの土地で、眼下に2匹の猫を認めた時は「これを下りてまた上るのか」と接近をためらうぐらいにはキツかった。
金桶を挟んでこちらを見つめるキジトラと茶トラ。せっかく下りて逃げられたら立ち直れないからそこで待っててね。
少し赤茶けた毛色のキジトラ。金門県の烈嶼に行った時も赤っぽい毛色の子が多くて(一例)、当時は食べ物のせいかと思っていたけど、もしかしたらどちらの島も赤っぽい花崗岩の構造物が多いからかも知れない。その方が景観に紛れやすいからね。
カメラを向けたらしゃんとした茶トラ。さては観光客慣れしているな。
丘を一つ越えて牛角と呼ばれる集落にたどり着いた。当たり前だけど赤くないのもいる。
馬祖列島は歴史的に大陸の福建省東部との結びつきがあるので、南竿島にも閩東式と呼ばれる建物が点在しているが、古いものはこのように廃虚化して猫の寝床になっている。烈嶼や金門島では閩南式と呼ばれる福建省南部由来の建物が多く(一例)、こちらは多雨という気候から屋根の勾配が急なことが特徴。言語も閩東語と閩南語ではまったく異なり、両者に互換性はないのだそう。例えば猫のことを閩南語ではniau、閩東語ではmàというそうだから、確かに互換性はなさそうだ。話者の数も閩南語(台湾語)が1,870万人と圧倒的で、一方の閩東語は馬祖列島で暮らす約13,000人のうち、大陸の福建省にルーツを持つ一部の人に限られる。
現代的な建物でも石造りの壁やなだらかな屋根の角度に閩東建築の特徴を見て取れる。しかし注目して欲しいのは地面なのである。
しゃがんだら近寄ってきた。背後にも何か見えているけど、二猫を追う者は一猫をも得ずだから気にしないでおこう。
キジトラと三毛ちゃんはとても友好的。車の下のは気にしないでおこう。
東引島と違って南竿島には空港があるし、台北や台中からたくさん飛んでくるので観光客は圧倒的に多い。猫も物怖じしないから張り合いがあるな。
可愛らしい2匹(ほか何匹か)の動画はこちら。
きょとんとしていて逃げる気はなさそう。あとで調べたら台湾でソリッドの灰(blue)や灰白(blue and white)を見たのはこの子が初めてだった。ついでに調べたらクリーム系や二毛・三毛も少なくて、茶色+ティッピングで薄く見える子はたまに見かけるものの、希釈色と断定できるのは玉里の薄色二毛と蘭嶼のサバ白、ライラックタビー白ぐらいのもの。歌川国芳の時代の日本に希釈色が存在しなかったのと同様に、現代の台湾では希釈遺伝子がまだそれほど広がっていないのかも知れない。
大きな茶トラ白はことの成り行きを眺めている。時刻は10時半近くで飛行機の搭乗まで残り2時間ほどだが、どこかでご飯も食べておきたいのでそれほどの余裕はない。気温の上がってきた南竿島であとどれだけの出会いがあるのか、気になる続きは週末を待つべし!