昨日の夜勤は暇に飽かせて伊豆諸島猫旅の続編の旅程を練っていた。伊豆諸島の有人島は九つあって、先日はそのうち四島を訪ね歩いたので、残りは東京から近い順に大島、三宅島、御蔵島、八丈島、青ヶ島の五島となる。色々調べた結果、これらを回って猫を見つけるためには、最短でも2泊3日しないと無理らしいことが分かった。加えて島から島への移動には東京愛らんどシャトルと呼ばれるヘリコミューターを駆使しなければならず、往復の飛行機代も合わせると交通費だけで10万円近くになってしまう。そのようにして伊豆諸島を制覇したとしても、最後には実現可能性の低いラスボス「小笠原諸島」が残るわけで、現時点で東京都全自治体猫制覇は難しいとの結論に至った。島嶼と23区以外は制覇済みなので、当面は区部を片づけていくことになるだろう。ちなみに残っているのは台東区、墨田区、品川区、目黒区、北区、荒川区、板橋区、足立区、葛飾区の9区。
話を伊豆諸島猫旅に戻して、今日紹介するのは三つ目に訪ねた式根島の続き(前回の記事はこちら)。宿泊地だったこともあって散歩に割ける時間は最も長く、朝早くから歩き回ってたくさんの猫に会うことができた。四島の中で最も猫密度が高いのは恐らく式根島で、半日に満たない散歩でも、その全貌に触れることは容易ではないと実感した。猫旅初日は疲れ切っていたので、投宿後は近所の温泉に出かけたくらいだったが、そのたった数分歩く間にも20匹近い猫に遭遇した。例えばiPhoneで撮ったこちらの写真の猫たちは、集落の外れの森林で暮らす野猫(イエネコが山野で自活して再び野生化したもの)のようだった。人家にも撮影を諦めた猫がかなりいて、その多くは家族で子猫を伴っていたので、式根島には目に入る10倍以上の猫がいるのではないかと思う。
そしてまた、式根島の猫は毛色が興味深い。朝食前の散歩をスタートして約30分、上り坂の向こうに佇む2匹の猫は遠目にも毛色の薄いことが分かる。
私は猫好きの観光客です。写真を撮ったらすぐ行くのでどうぞそのまま。
毛色がシルバーシェードとカメオに変異した麦わら。抑制遺伝子(I遺伝子)の働きによりティッピングが生じて、被毛の生え際が白く抜けているので、毛色がまだら状に見える。
ごろーんしてくれたので、右後ろ足の爪先にレッドがあるのがよく分かるね。
もう1匹はやや警戒心が強く、近寄るのはこれが精一杯。レッドが見えないので、これはシルバーシェードという名のまだら。
式根島は火山島だが、集落のある東側は火山本体ではなく、南西側に存在する火口から流れ出た溶岩で形成されたと考えられている。しかしその溶岩が幾重にも折り重なっているため平坦ではなく、散歩はそれなりに消耗する。高い湿度にやられて、汗だくになって丘から下りてくると、他所者を見張る地元民の鋭い視線がこちらに向けられていた。
式根島ではむしろ珍しい普通のキジトラ。隠れんぼ作戦で全身の撮影に成功。
森の茂みから出てきたと思しき猫の親子を発見。前日の夕方、iPhoneで撮影したのとはまた別の家族のようだ。
キジ白子猫はとっとと逃亡。こちらの出方を窺っているのは恐らく母で、毛色はやはりティッピングを伴うまだらのスモーク。ティッピングは優性遺伝だが、子猫が普通の毛色(ii)であることから、この母のI遺伝子座の遺伝子型はヘテロ接合型のIiであることが分かる。
茶トラ子猫が咥えているのはトカゲみたい。まだ小さいのに狩猟能力が高いな。
この付近にはiPhoneで撮影したファミリーやこの母子のほかにも夥しい数の猫が潜んでいて、通りかかるたびに何匹も見かけたが、極めて警戒心が強く、目が合っただけで蜘蛛の子を散らしたように逃げてしまう。冒頭にも書いたが、これらの猫は恐らく野猫で、この子猫なども捕まえたトカゲを弄ぶのではなく、バキバキと骨の砕ける音を立てながら完食していた。この島は猫に親切な人が多いようなので、完全に自活しているかまでは分からないが、こうして森林で暮らす猫も少なくないものと思われる。
場所が違わなければ、この日最初に会ったカメオ(こちら)と見分けがつかなかったかも。この島は本当にティッピングが多い。
毛色はこちらの方がやや濃いみたいね。ティッピングの幅(生え際の白抜けの幅)の違いだろうな。
狭い範囲で暮らす猫に特定の毛色が多い現象は時々見られる。俺の散歩コースでは立川の茶猫タウン、有名どころでは愛媛県の青島などがそうだが、式根島におけるティッピングの猫たちは、優性のI遺伝子を持つただ1匹の祖先を持つのではないかと想像している。茶猫タウンや青島に多く見られる茶色遺伝子(O遺伝子)は、猫の毛色を司る中では白色遺伝子(W遺伝子)の次位にあたり、要するにありふれているわけだが、ティッピングはそう頻繁に見かける形質ではないからだ。伝承ではもともと式根島には猫が1匹もいなかったとされ、近代に入ってから鼠対策のために持ち込まれたそうなので、その中にまだらの猫が紛れ込んでいたのかも知れない。そして、かつてはるひ野の丘で暮らしていたまだら家族(こちらの記事)のように、ほかと隔絶された場所で交配を繰り返した結果、ここまで増えたのではないだろうか。
式根島ではもう少しだけ猫に会ったが、構成の都合により今日はここまで。次回・最終回は最後の散歩地である利島へ渡る。