972hPaという台風並みの低気圧がサハリンの南にあってさらに発達を続けている。天気が回復した今日になっても風が強く、府中や八王子では朝の気温こそ4〜5℃とさほどではなかったものの、強風下ではあっという間に体温を奪われることが分かり切っていたので、散歩はお休みして一日中家の中に引きこもって過ごした。伊豆諸島の交通機関はどうなったかと思って調べたところ、東海汽船の貨客船は昨夜の段階で欠航しており(つまり東京を出発していないので)、当然のことながら御蔵島も三宅島も今日発着の船はすべて欠航になっていた。ヘリコプターは条件付きとしか書かれていないので分からないが、予定では今日午後の船で三宅島から帰京するつもりだったので、もし行っていたら御蔵島か三宅島のどちらかに閉じ込められていた。旅程は丸ごと来週末にリスケしているが、海上はすでに冬模様であり、今期はもう諦めた方がいいかも知れないと思い始めている。
今日の記事はそんな事情をまだ知る由もない先月25日、伊豆諸島猫旅の最終回となる三宅島で出会った猫たちを。2日間の休暇に2泊3日の猫旅をねじ込めたのは3日目が夜勤だからで、この日は三宅島の散歩を終えたあと、15:30発の新中央航空408便で調布へ飛び、自宅で着替えてから少し遅刻して出勤するつもりだった。ところが前回の記事に書いたように、伊豆諸島付近は気圧の谷が接近して強い雨雲が発生しており、小型プロペラ機である同便の運航も天候調査中となって予断を許さない。どらちへ転ぶにせよ、ぎりぎりまで引っ張ったのでは職場に二重の迷惑をかけることになるので、早々に事情を説明して休ませてもらうことにしたが、いつ降り出すか分からない空模様では散歩の方も安心できない。坪田地区の中心部から空港までは2km近く離れていて、早めに戻った方がいいとは思うものの、それを引き止めるかのように猫が現れてくれる。
まあいいや。起きてもいないことを心配しても仕方がないから散歩を楽しむかー。
空港を背にして人通りのないメインストリートをさらに行くと、民家の壁際に猫が張り付いているのが見えてきた。
2017年9月に夕張で見かけて以来、2匹目のフォーン白に遭遇して大興奮の俺。まさか三宅島で会えるとは!
クリーム白に似ているけど、比べてみれば明らかに違う。フォーン白は黒白が変異した毛色で無地(ソリッドカラー)なのが特徴。黒のB遺伝子座の遺伝子型が最劣性のblblに変異してシナモンになり、それがさらに希釈遺伝子ddで薄まるとフォーンに変わる。12年以上も猫を探し回って2匹目という珍しい毛色なので動画も撮っておいた(こちら)。この家の周りにはほかにも数匹の猫がいたが、薄色系はこの子だけのようだった。
空港に降り立ったころには見えていた青空が雲に覆われ、辺りは急に暗くなってきた。三宅島には村営バスがあって島内を時計回り・反時計回りする便がそれぞれ毎日5本ずつ運行され、船の入港に合わせて早朝便が設定されるなど利用者の便が図られているが、空路との接続はまったく考慮されておらず、ヘリコミューターに至っては11:40に着くにもかかわらずバスが11:37に出てしまうなど、作為を感じるほどのひどいダイヤになっている。次のバスは4時間待たなきゃ来ないのになぜあと10分ずらせないのか。その10分を争う事態がこの島に存在するというのだろうか。
雨が降ってきたらタクシーを呼ぶしかないなあ、村営バスだから民業圧迫を避けてあんなダイヤにしているのだろうかなどと考えながら歩いていると、民家の前庭でちょこなんとするキジ白に遭遇した。
猫は奥の方へ逃げちゃったけど、外に出てるならまだしばらくは降らないのかも。
何と何と、またしてもフォーン白。フォーンが普通にいるということは、きっとどこかにシナモンもいるのだろうし、もしかしたらチョコレートやライラックもいるのかも知れない。この島、また来なきゃ!
もちろん珍しい毛色だけではなく、野生型のキジトラも普通に見かける。
チョコレートタビー(chocolate mackerel tabby)のようにも見えるけど、尻尾の先端が黒なのでこれはキジトラ(brown mackerel tabby)。B遺伝子座の遺伝子型がbb(またはbbl)に変異しているチョコレートタビーは、尻尾も含めて黒い部分がすべてチョコレート色に変わっているはず。
不思議に思うのは、海に隔てられたこの島に様々な毛色の遺伝子が存在するということ。離島の猫というのは往々にして近親交配が進みやすく、愛媛県の青島で見られるように特定の毛色に偏るケースが多いが、三宅島にはそうした傾向がまったく見られない。東京から船や飛行機で気軽にこられる場所なので、ペットの行き来も頻繁にあるとは思うが、本土以上に種類豊富という理由が想像できない。しかも三宅島は2000年8月に発生した火山噴火により全島避難が行われ、防災関係者だけが駐在するという無人島に近い状態が4年5ヶ月も続いていた。三宅島は野鳥やイタチなどの小動物が豊富なので、もともと野猫だったものや、飼い猫から野猫化できたものは無人でも生き残ったかも知れないが、2005年に還住が始まってから20年足らずという割には数が多いようにも思う。
ちなみに全島避難の際はペットも同行したそうだが、ケージが用意できなかったり、避難先の都営住宅がペット不可だったりして、島に置き去りにされたものもいたようだ。俺がこの日見かけた中には、そうした猫たちの子孫も含まれているのかも知れない。
猫を見かけるのは人家の周囲ばかりとは限らず、セイタカアワダチソウの咲く荒れ地や倉庫の屋根にもいる。
ここまで近寄れるのだから君は野猫じゃないんだろうね。耳に切り欠きがあるし。
こちらは長毛のクリーム。ここは本当に色んな毛色のいる島だね。
あまり空港から離れると戻るのが大変なので、次の猫で折り返すことにした。あの子は何色かな。
車の下へ逃げかけたところを何とか呼び止めて最後の1枚。灰トラ+クリームトラ+白という薄色の三毛で今次の伊豆諸島猫旅は終了となった。もし来週、キャンセル待ちしているヘリコプターが取れて、なおかつ御蔵島に宿が確保できれば、三宅島にももう一度赴くことになるが果たしてどうなるか。もし行けたとしても村営バスが不便すぎて、2時間半という滞在時間で阿古や伊ヶ谷といった複数の集落をハシゴすることは難しく、どこを散歩するか決められないまま現在に至る(島嶼シリーズの続編はこちら)。