今年も残すところあと一日となり、今日はキジ白3号のところへでも挨拶に行こうと思っていたら、午前中からあいにくの雨。挨拶は諦めて通常出勤したが、そのころには雨は止み、薄日まで差していたのが一層残念だった。
とはいえ散歩を休むと台湾の猫たちの出番が回ってくるので、天気が悪いのも痛し痒し。今日は一昨日に続き、高雄の旗津島で出会った猫たちから紹介する。撮影日は11月28日木曜日(猫旅4日目)、天気は晴れで気温は23℃。
路地の先で2匹の猫が寛いでいた。
猫はアンフレンドリー。黒はとっとと逃げ、残ったキジトラも風前の灯。しかしこの時すでに俺は鋭い視線に気づいていたのであった。
背後には造船所のゴライアスクレーンが聳えている。紅白の巨大なクレーンは俺の故郷である函館のかつてのシンボルでもあり、帰省した折には、青函連絡船の甲板(ある時期からは津軽海峡線の車窓)からその姿を認めて、「帰ってきたのだなあ」と感慨に耽ったものだった。函館造船所のゴライアスクレーンは老朽化により2009年に撤去され、俺が実物を見たのも実家を引き払った2007年が最後。懐かしい構造物を高雄で再び見られるとは思わなかった。
途中、小走りになったりもして、中洲輪渡站にたどり着いたのは、前鎮行きの船が出る5分前。周囲の民家の軒先には魚卵と思しき干物があちこちに並べられていて、それがカラスミと呼ばれる高級珍味であることを知らなかった俺は、写真を撮っただけでその場を離れてしまった。5分あれば買えたのに、ものを知らないというのは悲しいことだ。
観光需要の旺盛な鼓山~旗津と違い、通勤通学客の失せた前鎮行きの船内はがら空きだった。甲板で動画を撮っているうちに前鎮輪渡站に到着し、そこから高雄捷運の凱旋駅までは約1.5km。歩けば20分はかかりそうだった。
凱旋から高雄國際機場までは捷運で3駅。12:30発の飛行機で花蓮へ飛ぶことにしている。このまま高雄に留まっていても、猫にはわんさか会えるのに、わざわざ遠く離れた花蓮へ移動するのは、台湾鉄路で最後に残った宜蘭線の未乗区間(蘇澳新~蘇澳)を片付けなければならないからだ。花蓮空港は初めて台湾を訪れた2014年の猫旅で最初に降り立った空港で、海外旅行自体が初めてだった俺は若干テンパっていて、総大理石造りの空港施設をじっくり見物する余裕がなかった。この機会にもう一度あの豪華な空港を見たいと思ったのも、空路を選んだ理由の一つだ。一日一便しかないので乗り遅れるわけには行かず、前鎮輪渡站に客待ちのタクシーがいれば乗ろうと思っていたが、乗降客の少ない前鎮にそのようなものはない。時間にも余裕があったので、予定通り猫を探しながら歩くことにした。
一気に都会感の増した街路に黒白がいた。
IWGさんテイストで呼んでみたものの、固まったまま動かない。声色だけ真似てもダメらしい。
これも微妙な毛色だなあ……。飼い主のおばさんがミミという名前(つまりたぶんメス)だと教えてくれたので、その情報を助けに二毛に分類しておく。阿里山で会ったこの子をキジトラに分類しており、2匹の差異は何かと問われるととても苦しいのではあるが。ちなみにミミは漢字で咪咪だと思う。
同じ路地にもう1匹。このころ気温は26.6℃に達しており、本土の猫はどれも日陰にいた。
高雄国際空港に到着したのは11:40。朝から何も食べず休憩も取らずに歩き続けて、ここまで来てようやくゆっくりできた。売店でおにぎり2個、茶葉蛋、コーラを買ってお腹を満たし、花蓮行きの華信航空7931便は定刻の12:30に出発。離陸した飛行機はすぐに右旋回すると、花蓮空港のある北東方向ではなく真逆の南西へ向かい、海に出たと思ったら今度は左旋回して機首を南東へ向ける。標高の高い中央山脈を避けていることは分かったが、鵝鑾鼻の先っぽまで見えるほど南下するとは思っていなかった。
花蓮に着いたのは13:35。ATR 72-600(70席)という小型ターボプロップ機であり、雲を突っ切る時はそれなりに揺れて、台湾人乗客から悲鳴が上がったりもしたが、空港から外に出てみると予想以上の強風だった。中央氣象局のデータによれば、最大瞬間風速は20.1m/sに達していて、雲は厚く垂れ込めて暗く、2014年に初めて来た時と同様、まったく冴えない天気だった。
あの時は空港から花蓮市街の宿まで14.5kmも歩いて、なかなか猫が見つけられず、心が折れそうになったものだった。特に空港のある新城郷から美崙渓へ至る区間は、寒々とした住宅街に人影も猫影もなく、初めての海外旅行先は誤りだったと後悔もした。しかも今回は強風まで吹いていて、これでは猫がいたとしても出てきやしない。
台鉄花蓮駅を目指して、落ち込みながら歩いていると、横丁の隅っこに小さな塊がうずくまっているのが目に入った。高雄の茶トラから3時間あまりが経過していた。
俺の中ではすでに台湾名物になっている赤茶けたキジトラ。これは間違いなくキジトラ。
猫好きの気配を嗅ぎつけたか、お友達の茶トラ白も現れた。俺氏、テンション爆上げ。
花蓮空港を発着する飛行機は、どれも使いにくいダイヤなので、もう乗らないと思うんだ。せめて匂いだけでも覚えておいてね。
この日最後の猫グループも新城郷内。周囲には数匹の子猫がいたが、どれも即時逃散で、逃げ遅れたこの子だけがカメラに収まった。
花蓮から蘇澳新までは振り子式の電車特急・太魯閣号で50分弱。日が暮れるとともに気温が下がり、蘇澳新で乗り換えた区間車が発車するころには雨まで降ってきた。薄手のジャンパーを持ってきてはいたものの、それでも終端の1駅をがらがらで走る電車の車内は寒い。わずか5分で終点の蘇澳に着いても、ビールやコーラで祝杯を挙げる気にはなれず、駅舎の写真だけ撮ってタクシーに乗った。とにかく台湾鉄路には全線乗った。ご褒美に欲しいものは熱いシャワーだった。
次回、台湾猫旅最終日に続く。