金門県は烈嶼郷で迎えた台湾猫旅2日目から今日の記事は始まる。月曜朝の割に静かな路地を急ぎ足の猫が通りすぎていく。
この前日の3月19日は羽田から台北へ、台北から金門島へ、金門島から烈嶼へと移動を続け、宿泊地の青岐バス停に降り立ったのは19時ちょうど。自宅を出てから14時間半、距離は2,500kmにおよび、すでに夜の帳が下りて辺りは真っ暗になっていた(前回の記事はこちら)。
俺にとって初めての海外旅行は2014年12月の台湾猫旅で、それから何度も渡航して旅慣れたつもりでいたが、コロナでお預けを食ったせいで、すっかり初心者に逆戻りしている。基本的にでかい声を出さなければ会話にならない台湾華語の渦中に飛び込んでも、緊張してしまって急には声が出ないし、「あ゙?」などと聞き返されるとさらに萎縮する。そんな俺がいきなり台湾の果てまで来て無事に投宿できるのか、不安を感じながらの道中だったが、宿の場所を探すまでもなく、主人と思しき男性がたった一人の宿泊客を迎えに来てくれた。
この日泊まったのは小金門咪兒民宿といい、烈嶼西部では恐らく唯一の宿泊施設だと思う。Agodaなどの予約サイトではなぜか表示されず、Facebookのチャットから直接連絡して宿泊を打診した。そもそも台湾の民宿は予約時に50%の保証金を振り込むのが慣例だが、日本から台湾へ送金するには高額な手数料がかかる。手元に500元札が1枚あるので、それで良ければ郵送するがどうかと相談したところ、支払いは全額当日でOKと言ってくれたところからこの宿の親切は始まった。日本からたどり着いたばかりで、ろくに台湾華語も話せない俺をリビングに招き入れると、暖かい飲み物や軽食で歓迎してくれた上、ポケトークを介して烈嶼の歴史や見どころを教えてくれたり、車に乗せて夜景を見に連れて行ってくれたりもした。烈嶼というのは台湾で最も中国に近い島であり、地政学的緊張とは裏腹に、対岸に見える大都会アモイの夜景は宝石をちりばめたかのように華やかなのだった。
長旅で疲れた体を快適なベッドで癒し、20日の朝は5時半に起床した。カウンターに部屋の鍵を置いて勝手に出ていくという、いつもの猫旅のスタイルで出発しようとしていると、俺よりも早起きして待ち受けていた宿の主人が島内の名所を案内してくれるという。スクーターの後ろに乗せられ、1時間近くかけていくつかの集落を巡り、恐縮しすぎて謝謝以外の言葉が見つからなくなったころになって、ようやく本来の猫散歩をスタートすることになった。時刻は7:15、降ろされたのは東林と呼ばれる烈嶼郷最大の集落だった。
警戒心と好奇心がない交ぜになった顔つき。我是來自日本的貓奴(私は日本から来た猫オタですよ)。
この街に猫がどれだけいるか分からないから、少し多めに撮らせてね。
次の猫は傾斜地で寝ていた茶トラ。シャッター音ですぐに目を覚ました。
きょとんとしつつも身を伏せた。危機管理がしっかりしているようで何より。
8時を過ぎても人通りのほとんどない広い路地。急ぎ足なのはやはり猫。
犬君はもう食べ終わってるみたい。威勢のいい声で吠えたててくれる。
この子は最初に会ったのとは別の黒。耳の切り欠きがなければ分からなかった。
お土産は持って来たけど、おばさんがご飯を出してくれるみたいだから遠慮しとくよ。
8時を過ぎたところで移動開始。この日最初の散歩は烈嶼をあっちふらふらこっちふらふらしながら九宮碼頭(フェリーターミナル)へ向かい、9:30発の船で金門島へ渡ることにしていた。2kmの距離とはいえ猫を探しながらでもあり、最終的には飛行機に乗ることを考えるといい時間だった。
東林と九宮碼頭の中間には湖下という小さな集落があり、そこでは2匹の猫に遭遇した。
赤レンガにもマッチする毛色はとても微妙で、金沙で会った二毛にも増して赤い。そもそもの毛色が赤茶けているので、O遺伝子由来のレッドがはっきり分からないんだよなあ。
黒々とした毛並みの正統派キジトラと赤茶けたのが狭い範囲に共存しているということは、食餌が影響しているのではないのかしら。それほど極端に違うものを食べているとは思えないしなあ。
烈嶼散歩はここで予定部分が終了。このあと時間通りに九宮碼頭にたどり着いたものの、待合室が閑散としていることに不審を抱いて係員に聞くと、船は夕方まで動かないという。ポケトークを介した会話ではあるが、どうやら金門大橋が開通したことにより利用者が激減し、通勤通学時間帯だけの運航に縮小しているらしい。となるとすぐに島を出るにはバスで金門大橋を渡るほかなく、その係員は次の便が9:50に来ることや、それまで近くの軍用坑道でも見学して時間を潰せば良いと教えてくれた。ところがそのバス、実際の発車時刻が9:40だったため俺が戻った時には行ったあとで、次の便は1時間後。案内してくれた係員は恐縮至極という顔つきで何度も詫びたが、行ってしまったものはどうにもならないので俺としては空いた時間で猫を探すのみ。散歩がてら東林まで戻って、次のバスにはそこで乗るから気にしないでくれと伝えたところ、せめてものお詫びにと碼頭から東林老街まで車で送ってくれた。
こうした経緯で再び猫を探すことになった東林の集落。あと40分でどれだけ見つけられるかな。